Frühlingsstimmen 春の声 2



 
ゆらゆら、きらきら、

2匹の蝶々が

ワルツを踊ってる。
 
 

見て、見て!

青い空にピンクの雪、なんだかふしぎで・・・幸せな感じ。

いい匂いのするそよ風が吹いて・・・
 
 

そういえばさ、公園で蝶々がいっぱい飛んでたこと、あったよね。

あの時何か言いかけてなかった?

なんだっけ、えっと・・・蝶々たちが踊るのは・・・
 
 

あ、ねぇ、ほら、楽しそうな音楽が聞こえるよ。

くるくるとピルエットしながら音が舞い上がってくみたい。

明るい光が降り注いで、小さな白い蝶々が・・・
 
 

・・・あれ?

違う。あたしだ・・・!

あたし・・・パ・ド・ドゥを踊ってる・・・
 
 

ひらひら揺れる衣装は白く輝いて、まるでチュチュみたい。

でも、優雅にふわふわと宙に舞ってるのは、チュチュじゃなくて

・・・女の子のあたし。
 
 

え、えええ?

いつのまにあたし、こんなに上手く踊れるようになったんだろ?

てゆーか、そうじゃなくて、なんであたし、女の子の『あひる』になってるの?
 
 

あの『お話』はふぁきあが終わらせてくれて、あたしはただのアヒルに戻ったはずなのに。

もしかしてまだお話は続いてるの?

でもでも、今はそんなヘンな感じはしないし、空だってこんなに晴れてるし・・・
 
 

うーん、よく分かんないけど・・・あのお話じゃないなら、『本当』ってことなのかな。

あー、あたし、ほんとのほんとに、女の子になれたんだ・・・

そんなこと、願っちゃいけないって思ってたから、考えてもみなかったけど。
 
 

嬉しいなぁ。

ずっとこんなふうに、・・・と踊りたかったんだ、って、今なら分かる。

すっごく体が軽くて・・・なにより心が軽い。
 
 

まるで、自分でも気づかなかった枷がとれたみたいに。

チュチュみたいにきれいに踊れて―でも、操られて踊ってた時より、ずっと自由に。

鳥のあたしよりも―前に女の子だった時のあたしよりも、もっと・・・
 
 

あ、そうか。きっと王子様と一緒だからだね。

この人なら信頼できる。

あなたになら、あたしはあたしの運命を託して、せいいっぱい踊り切ることができるから。
 
 

しっかりと高くリフトされて空中を滑りながら、アン・オーに上げた手を開くと、

そこから雪―じゃなくて、ピンクの、たっくさんの花びらが生まれて、

あたしたちの周りでくるくるワルツを踊りながら広がってく。
 
 

嬉しくて、幸せで。

踊ってると、その気持ちが花になってあふれ出してくるみたい。

ずっとずっと、こうして踊ってたい・・・
 
 

どうしてかな?幸せなのに、胸がきゅっと軋む。

軽やかに心くすぐるような音楽のせい?

あたしたちを包んで揺れる淡い輝きのせい?それとも・・・
 
 

王子様がさっと動いてあたしを抱え、身を乗り出すように体を傾ける。

んん?この動き、なんだか懐かしい・・・?

って、考えかけたとたん、王子様と顔を突き合わせて見つめあった。
 
 

・・・ふぁきあ?

ふぁきあだ。

ふぁきあ・・・!
 
 

えっ、あれれ?なんだか急に胸がドキドキして・・・

体が熱くなって、じっとしてられないよな・・・

ふわあっと何かがこみ上げて、体が自然に踊りだすよな・・・
 
 

なんで?

だって、いつだってふぁきあはあたしと踊ってくれるのに。

いつもとおんなじだよね?
 
 

あたしを支えてくるくる回らせてくれたり、空に浮かぶみたいにリフトしてくれたり。

なめらかだけど力強い動きで、ふぁきあがあたしに向かって腕を差し伸べる。

あたしは、翼を・・・
 
 

ああ、そっか。

これ、夢なんだね。

だから、みんないるんだ。
 
 

みゅうととるうちゃんはお互いに腕を絡めるように優しく寄り添って。

猫先生はぴょんぴょん飛び跳ね、ぴけは腰に手を当てて胸を張り、りりえは胸の前で小さくひらひら手を振って。

うずらちゃんはエデルさんの足元で元気に太鼓を叩いて。
 
 

みんなにこにこ笑ってる。

みんな喜んでくれてるんだ。

よかったぁ。
 
 

ねぇ、ふぁきあ。

あたしたち、みんなの役に立ててよかったね。

あたしたち・・・頑張ってよかったね。
 
 

今はあたし達のために踊ろう?

何かを得るためでなく、ただ踊りたいから。

心の底から、いっぱいにあふれ出す、この気持ちのままに。
 
 

胸の奥深くで行き場を失ってた想いが

やわらかな春の声にほころび、優しいそよ風にのって舞い上がってく。

今、このときだけの、物語の時間に。
 
 

わかってる。

これは束の間の季節の、束の間の夢。

どんなに願っても、儚く消えてしまうもの。
 
 

でも、蝶々たちが一瞬の春に命を輝かせるみたいに、

離れてはまた一つになって踊りながら、

きっといつまでも輝く物語を紡ごう。
 
 

うん、そうだよ。

あたし、あなたとパ・ド・ドゥを踊ってる。

あなたの笑顔が・・・
 
 
 
 

「おい、起きろ」

「ぐ・・・くぁ?」

「いつまで寝ぼけてる。帰るぞ。日が傾くと寒くなる」

「くぁ!」
 
 

あああ・・・いつものふぁきあだ。
 
 

《せっかくステキな夢みてたのに・・・》

「素敵な夢?・・・腹減ったのか」

《もう!食べ物の夢じゃないよ!そうじゃなくって・・・あれ?なんだっけ?》

「知らねーよ。俺に聞くな」
 
 

《おっかしいなあ、確かになんかすごーくイイ夢だった気がするんだけど・・・》

「・・・そうか、良かったな。ほら、こいよ」

《あ、うん。わあい、ふぁきあの腕の中、あったかいv》
 
 

「体が冷えたのか?まったくお前は、あんな所で寝るからだぞ。ほら、頭に花びらがついて・・・」

《あっ、ふぁきあ、それ捨てないで!あたしにちょーだい》

「はあ?こんなもん、どうするんだ?」
 
 

《わかんないけど、なんとなく。見てるとなんか幸せな気分になれるし、いーじゃない》

「・・・まあいいけどな。じゃあ、帰ったら押し花にしてやるよ」

《わーい、ありがと、ふぁきあ!今日は優しいね》
 
 

「今日、は、だと?」

《もー、そんな顔しないで。眉間のシワで、よけいコワい人って思われちゃうよ》

「そんなことは・・・」
 
 

《どうでもよくないからね。ふぁきあは誤解されやすいタイプなんだから気をつけなきゃ。それと、女の子にはもっと優しくしないとダメだよ》

「お前に言われるまでもない。・・・というか・・・いや・・・」

《なに?》
 
 

「覚えてて、言ってるのか?」

《なにを?》

「・・・なんでもない」
 
 

《なんでもなくないでしょ。ヘンだよ、ふぁきあ。どうしたの?何を言おうとしたの?》

「・・・みゅうとと俺とは違う」

《?何言ってるの?当たり前でしょ》
 
 

「もういい。ともかく、俺のことでよけいな世話を焼くな」

《世話焼きなのはそっちじゃない・・・》
 
 

じろりとふぁきあが陰りのある瞳であたしを見下ろし、あたしは羽毛に首をすくめた。

しばらくして再び見上げると、ふぁきあは何か考えに沈んでるみたいな顔をしてた。
 
 

《あのね、ふぁきあ?》

「なんだ?」
 
 

どうしてか、言おうと思ってたことは口から出てこなくて、替わりに別のことを言ってた。
 
 

《・・・あの花はまた咲くんだよね?来年?》

「ああ」

《そしたらまたピクニックに来ようね?》

「・・・そうだな」
 
 

ふぁきあは微笑んだけど、どこか強張った表情に見えて、

あたしは何か元気づけてあげたいのにあげられなくて、

もどかしい気持ちになる。
 
 

あたし、あなたの役に立てたらいいのに。

ふぁきあにはきっと、バーカ、って言われちゃうよね。

でも、あたしは『ほんと』に、ふぁきあのこと、大好きだよ。

次の春も、その次の春も・・・きっとね。
 
 
 


 

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