Aufforderung zum Reiten 乗馬への勧誘 1



 
「ふぁきあ!って、馬乗れたよね?!」

強い光が瞼の裏に射し、うたたねから覚まされた。

「・・・なんだ、いきなり」
「ねぇふぁきあ、学校の中庭で頭に本乗っけて寝てたら危ないよ。ヤギ子先生が転がってくるかもしれないし、ふぇみおの牛に踏まれちゃうかもしれないし・・・」
「俺はそんなに鈍くない。いいから、それ返せ」
「あっ、もう。ふぁきあってば、あたしには色々うるさく言うくせに、自分は・・・」

俺が取り返した本に手を伸ばして無防備に寄りかかってくる小さな体を、片手で押し返す。

「それで?馬がどうしたって?」
「あっ、そうそう、ぴけとりりえがね、今度一緒にファームステイに行こうって。田舎の農家に泊まって、畑や家畜の世話をしたりするんだよ。で、馬に乗って野原を歩けたりもするんだって。ほら、あたし、馬に乗ったことないじゃない?だから、ふぁきあ、乗り方を教えてくれないかな、って・・・あと、収穫した果物でジャムを作ったり、搾ったミルクでチーズを作ったり・・・」
「やめとけ」
「えっ?なんで?あ、もしかして、あたしが一人で行っちゃうと寂しい?」
「違う!そうじゃなくて・・・とにかく、馬はダメだ。落ちて骨でも折ったらどうする。お前、卵とはいえ、バレリーナだろう」
「だあって〜。楽しそうだし、それに、バランスの訓練にもなるんだって。ふぁきあだって乗ってたじゃん」
「一緒にするな。お前、そそっかしいんだからな」
「またそうやって自分だけ危ないことする・・・」

のぞき込んでくる顔を避けるように立ち上がり、本で膝を払う。

「俺は危ないことをしてるわけじゃない・・・今はな。ともかく、こういうことには、技術とか訓練以前に、向き不向きってものがあるんだ。お前は乗馬には向かない。馬は賢いし、乗り手の人を見る。精神的にも馬を支配して従わせられる人間でないと、乗りこなすことはできない」
「馬と心で話すってこと?」
「・・・ちょっと違うが、まあ、それに近いか」
「じゃあ、たぶんできるよ。あたしにも」
「あのな、そういうことじゃなく・・・」
「ねえふぁきあ、バレエだって本当はあたしには向いてないかもしれない。でもあたしは、そんな理由で踊ることをやめたりしないよ。そうでしょ?」
「それとこれとは違・・・」

きらきら輝く大きな瞳を見てはいけなかった。なのに、つい見てしまった。

「・・・う・・・」
「大丈夫。本当にムリだって思ったらやめるから。あたしだってケガするのイヤだもん。でも、努力してみる前にあきらめてしまうのもイヤだから」
「・・・それは分かるが・・・」
「それでさ、いつかふぁきあと、馬を並べて走れるようになったら、素敵だと思わない?一緒にパ・ド・ドゥを踊るみたいに。あっ、そうだ、そんなに心配してくれるんだったら、ずっとそばにいて教えてくれればいいじゃない?こっちで練習する時だけじゃなくて、あっちで乗る時も」

頭の中で広がった妄想に気を取られて、うっかりうなずいていた。

「・・・しょうがねーな」
「よかった!じゃあ、ふぁきあも一緒に行くって、ぴけとりりえに言って来る!」
「おい、ちょっと待て。俺はお前達と一緒に行くなんて言ってない。第一、誘われたのはお前だろう。俺はお前が馬に乗る時だけ様子を見に・・・」
「だいじょーぶ、最初っからふぁきあも誘うってことになってたから」
「・・・は?」
「うん。『ふぁきあも一緒でいい?』って聞いたら、ぴけは『あんたはきっとそう言うだろうと思ってたよ』って。りりえは『楽しみねえ〜v』って」

何を楽しみにされているのか知らないが、どうせロクなことじゃない。 だが、身震いして引きとめようとした時には、パタパタと走って行ったあひるが、植木の陰で手ぐすね引いて待ち構えていた二人に捕まるのが見えた。
 
 
 


 

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