Windspiel 風鈴



 

「あっ、ふぁきあ!お帰りなさい!帰ってたんだね!」
「遅かったな。まあ、どうせ今日も居残りだろうとは思ってたが」
「うう...ほんとは早く帰ってきて、駅までお迎えに行きたかったんだけど...あ、晩御飯もうできてるv」
「荷物置いて、座れよ。飯にしよう。腹が減った」
「はーい。ふぁきあの作ったご飯、久しぶり!うれしいな」
「カロンのと変わらないだろ」
「それはそうだけど...あ、そうそう、カロンさんはお料理手伝わせてくれたよ!ふぁきあにも今度作ってあげるね。ジャガイモとタマネギのスープとか、茹でアスパラガスのオランダ風ソースかけとか...」
「遠慮しとく」
「もー、あたしにだってできるのに。カロンさんだって、『ふぁきあが料理を始めた頃より上手だよ』って言ってくれたよ」
「その頃俺はまだ小さかった。いいから食え」
「うん、チーズのラビオリ好きv...でも、この、上に乗っかってる黒いの何?」
「食ってみろ」
「...美味しい!これ何?」
「Nori」
「ノリ?」
「ああ。海草を乾燥させたものらしい。他の皆は食わなかったが、試しに食ってみたら旨かったから、お前にも食べさせてやろうと思って...」
「持って帰ってきてくれたの?ありがと、ふぁきあ!そういえば日本公演どうだった?」
「まあ、成功、かな。拍手も多かったし、カーテンコールがなかなか終わらなくて、俺も何度も出た。もっとも日本はいつでもそうらしいから、批評家の評価が出てみないと何とも言えないが」
「いいなあ。ふぁきあはスゴイよね、学生なのに抜擢されて海外公演なんて」
「子役もどきだったけどな」
「あたしもいつか行ってみたいな。でも海外公演って、体調管理とか難しそう」
「いつもと変わらないさ。ただ、こっちとはだいぶ気候が違うから、その辺りの調整にちょっと気を遣った」
「へー、そうなんだ。日本って熱帯の国だっけ?」
「...海外公演に行きたいなら、地理もちゃんと勉強しろ」
「ところでふぁきあ、さっきから気になってるんだけど、その箱、何?」
「話を逸らすな...飯は食い終わったか?」
「うん、ごちそうさま!美味しかった!それで?」
「みやげだ。ほら」
「わーい、ありがとう!なになに?キモノ?ニンジャ?」
「お前ニンジャを何だと...いいから開けてみろ」
「うん...わー!キレイ!!」
「壊れてなかったか。良かった」
「これ、なあに?ガラスのベル?あっ、ベルにアヒルの絵が描いてある!下に紙がぶら下がってるよ。何か文字が書いてある...これを持って鳴らすのかな?」
「貸してみろ」
「はい。えっ、ふぁきあ、どこ行くの?...窓際に飾るの?」
「...どうだ?」
「あ、風で揺れて音がする...へぇ、自動的に鳴るんだ...」
「『風鈴』っていうらしい」
「ふうん。風の音楽だね」
「風の音楽、か。そうだな」
「これを聴けたのもふぁきあのおかげだね!ありがと!」
「おおげさなヤツだな。みやげ物を買ってきたくらいで」
「そうじゃなくて。ふぁきあがあの物語を終わらせてくれたから、あたし達は外の世界に出ることができて、外の世界にはこんな珍しいものやステキなものがいっぱいある、って知ることができて良かった、ってこと」
「良かった...か...」
「なに?」
「いや...ああ、そうだな、だが俺だけの力じゃない。それに壁を壊したのは、お前と、みゅうとだ。お前達が気づき、決断したから、壁は壊れた」
「でもそれだってふぁきあがいてくれたおかげだよ」
「みんな、だな。俺やお前だけじゃなく、あの時あの場にいて俺達と関わっていたみんな、一つ一つの関わり、一つ一つの出来事が重なって、物語を終わらせることができた。だからあれは、一種の奇跡みたいなものだったんだ。...そう思うようになった」
「うん、そう!あたしもそう思ってた!...うれしいな、ふぁきあと同じコト考えてたなんて」
「そ、そうか」
「うん。ねえ、この風鈴、みゅうとやるうちゃん達にも見せてあげたいなぁ。あっちの世界にも有ると思う?」
「さあ」
「もう、ふぁきあってば、素っ気ないんだから」
「あっちにはあっちで、俺達が見たことのないものがたくさん有るさ。さあ、気が済んだらしまっとけよ。鳥達が音で驚いて来なくなるぞ」
「あ、それは大丈夫。ちゃんと話しとくから」
「そうなのか?」
「うん、じゃあ、デザート食べよ!揚げリンゴがあるんでしょ?帰ってきた時、匂いがしてたよ!」
「よく食うな、お前...」
 
 
 
 
 

 

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