その夜は暑かった。
ので、リンデは紐で締めるタイプの襟を大きく寛げ、無心に急ぎの縫い物に取り組んでいた。
寝室に続く扉が開いて締まり、息を呑む音がして―そのまま何の物音もしない。
目を上げてそちらを見やると、まじまじと彼女を見ているクリスと目が合い、リンデはちょっと首を傾げる。

「ふぁきあは眠った?」
「ああ」

クリスがぎくしゃくと近寄ってきて、リンデの傍で立ち止まる。
何やらうなじに熱い視線を感じるが、無視して縫い物を続ける。

「クリスにお話の才能があるなんて意外だったけど、すごく助かるよ。
 特に今日みたいな忙しい日は。いつか私にも聴かせてね」

突っ立ったままだったクリスがふいに薄手のブラウスに覆われた肩に手をかけて
耳元に屈み込んだ。

「君には物語を聴かせるよりもっとしてやりたいことがある」

ぞくりとするような低い囁き、そして間を置かずに首筋を妖しく唇が這い、
針を持つ手元が震えて、リンデはつい手を止める。
それを待っていたようにクリスが縫い物を取り上げ、リンデの手から遠ざける。

「何する・・・んんっ」

異議を唱える隙も無く、荒々しく唇を塞がれる。

「ん・・・や・・・や・・・めて・・・」

逞しい肩を掴んで途切れ途切れに言ってはみるものの、ほんとにやめて欲しいのか
確信が無くて、あまり強い口調にはならず、もちろんクリスは聞く耳を持たない。
そうこうするうちに襟元はすっかりはだけ、細い肩(と胸の上部)が露になってしまった。
でもクリスにがっちりしがみつかれ、休みなく指と舌で攻め立てられるせいで、
火が点いたように体がかっと火照り、全然涼しくない。

「ねぇ、待って、今は・・・」
「待てない」

あっという間にテーブルの上に押し上げられ、仰向けに寝かされる。
喉元にかかる熱い息と胸を揉みしだく熱い手に気をとられている間に、
いつのまにやらスカートがたくし上げられ、脚の間に入り込まれていた。

「だめ・・・だめ・・・ふぁきあが起きちゃう・・・」
「だいじょうぶだ、ぐっすり寝てるから」
「そんなこと言って、この前ももう少しで見つかっちゃうとこ・・・あンっ!」
「ほら、もう君だって準備できてるし、こんなとこで止められない・・・」
「あ、あァ・・・う・・・ん・・・」
「いいか・・・行っても?」
「は・・・早く、早く来てっ」

それっ、とばかりに覆い被さるクリス。
性急に攻めに出るがっしりした腰に、細い脚がきゅっと巻きつく。
よほどたまっていたのか、最初からいきなりハイピッチ。
テーブルはそれなりにしっかりした造りとはいえ、軋む音は抑えられない。
ただし『声』の方は、その瞬間も含めて、必死で噛み殺す。その間わずか数分。
それからしばし荒く呼吸しながら無言でテーブルの上に折り重なっていた後、
リンデがクリスの身体をずらしてぐったりと身を起こすと、
抜去の結果がテーブルの周囲一面に飛び散っている。
(リンデの頭の下に合った縫い物だけは辛うじて無事)

「ああ、もう、こんなに散らしちゃって」
「しょうがないだろ。久しぶりなんだし」

どういう理屈かよくわからない。

「早く片付けなきゃ・・・もう遅くなっちゃったから、さっさと片付けてさっさと寝よ?」
「もう1回いいだろう?」
「もうダメ。疲れちゃったし、明日も忙しいんだから、今日はこれでおしまい」
「頼む、あと1回だけ・・・」
「あ・・・ん・・・だめ、だって、ばっ!」

リンデが圧し掛かるクリスを押しのけようとした時、隣の部屋から子供のぐずる声。
慌てて離れる二人。リンデは急いで服を整え、そちらに向かう。
扉を開ける前にくるりと振り向き、有無を言わせぬ口調で一言。

「自分が汚したとこの後片付けは自分でね」

パタンと閉まった扉を見つめ、クリス(と彼の一部)はしゅんとしょげ返った。


 

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