再び扉が開いてパルシファルが入ってくる。リンデは戸口から覗いて声をかける。

「じゃ、ちょっと待っててね」
「あ、別に持って来なくても・・・」

しかしリンデはもう聞いてはいない。バタンと閉まった扉を呆然と見ているクリスに、パルシファルがすまなそうに笑う。

「これじゃあ、ゆっくり休めないかな?」
「ああ、うん、いや・・・」

珍しく動揺している様子のクリスを見てパルシファルは少し微笑み、それから表情を引き締めて頭を下げる。

「リンデにばらしちゃって、ごめん」

クリスは少し考えてから首を振った。

「・・・いや、今回はおかげで助かった。でも、もしまたこんなことがあったとしても、なるべくリンデには黙っててくれるか?心配かけたくない」

するとパルシファルは難しい顔になり、ややあってためらいがちに言った。

「クリス、そのことだけど・・・陛下にちゃんと言った方がいいんじゃないか?」
「何を?」

クリスは不思議そうな顔でパルシファルを見る。

「君の待遇のことだよ。宮廷での君の扱いはあんまり不当すぎる。いつも当然のように君に大変な仕事をさせておいて、皆その恩恵を受けているのに感謝もしない。それなのに君はいつも文句も言わずに彼らの無理難題に応じて、 理不尽な言いがかりをつけられても大人しく聴いてるし、手柄を横取りされても黙ってる。君は人が良すぎるよ」

途端にクリスは笑い出した。

「クリス!」
「ああ、ごめん・・・いや、君に言われるとは思わなかった」

そう言いながらもクリスは口元に手を当てて笑いを押さえていた。

「笑い事じゃない。僕が言うよ。陛下に・・・」
「いいんだ」

あっさり遮られて、パルシファルは眉をひそめてクリスを見た。

「クリス・・・」
「心配してくれてありがとう。でも、本当に気にしなくていいんだ。僕は褒賞も称賛も欲しいとは思っていない。良い結果が得られれば、それでいいんだ。それに僕が欲しいのは・・・」

クリスは一瞬言い淀み、少し恥ずかしげに、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。

「もっと別のものだから」

しかし、パルシファルとしてはここで引き下がるわけにはいかなかった。

「でも、このままだと、冗談じゃなく、君はまた危険な任務に廻されるよ。僕はリンデを泣かせたくない」
「僕もだ」

パルシファルを真っ直ぐ見返してきっぱりと答えたクリスに、パルシファルははっとする。

「でも、誰かがやらなければならないことで、僕にできることなら、回避する気は無いよ。やれると思ったから引き受けた。今回は失敗してしまったけどね」

クリスは笑った。

「大丈夫。二度とこんな失敗はしないよ」

クリスは断言したが、パルシファルは不安を消しきれない。
その不安を封じるように、クリスは穏やかに言葉を重ねる。

「ありがとう。君達に出会えて、僕は本当に幸運だった」

本当に幸せそうに笑うクリスに、パルシファルはそれ以上何も言えなかった。
クリスがふと何かに気づいて立ち上がり、足を引きずって扉に近づく。
扉を開けると、両手で朝食を載せたトレイを掲げたリンデが、扉を開けられずにまごついていた。

「ありがとう」

クリスはリンデの額に軽くキスをしてトレイを受け取った。


 

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