「寒いのか?」

リンデの前髪を軽く掻き上げ、クリスが尋ねた。

「ん・・・ちょっと」
「待ってろ、今、掛ける物を・・・」

起き上がりかけたクリスの腕をリンデが掴んで引き止めた。

「いいの。しっかりくっついてればだいじょうぶだよ」

リンデは有無を言わさず、掴んだ腕を自分の背中に廻させ、クリスに抱きついた。小さな剥き出しの肩を裸の腕で包み込みながら、クリスは辺りに脱ぎ散らかされた服の山に目をやった。

「だが・・・」
「こっちの方がいいの」

リンデが気持ち良さそうに身を摺り寄せてくる。滑らかで柔らかい素肌が自分の硬い肌の上を擦れる感触に、クリスの体が反応した。治まりかけていた衝動に火が点いた。

「んっ・・・クリス?」

困惑した声を漏らすリンデにお構いなく、胸に当たる柔らかなふくらみをまさぐる。弛緩しきっていなかった股間の緊張は、あっという間に硬く張り詰め、再び温かな体内に埋め込まれるという期待に熱く疼いていた。

「クリス、待って、何・・・」

自分の胸を押し返す非力な手を無視して、クリスはリンデの胸から背へと手を滑らせ、両腕で抱き締めた。絹糸のような髪に指を絡めて細い首筋に顔を埋め、清楚な花を思わせる香りを嗅ぐ。全身を熱い血が駆け巡り、体の中で荒れ狂う嵐は、既に手がつけられない。

「さっき約束した・・・次は、君のためだって・・・」

明らかに言い訳だと自分で思いつつ、内緒話のように耳元で囁く。混乱したリンデが、クリスから逃れようと身を捩った。

「えっ、あの、私は別に・・・って、クリス・・・っ、あっ!」
 
 
 

優しく耳たぶを噛まれ、敏感な首筋に熱い息がかかって、リンデは全身がぞくりと粟立った。反射的に弓なりに反ったリンデの体をクリスが掴んで腰を押し付けてくる。

「感じて欲しい・・・君にも・・・」

下腹部に当たる確かな熱い塊を感じて、リンデはかっとのぼせあがった。はしたないと思う頭の片隅で、それを望んでいる自分を感じる。胸がときめき、体が熱くなるのを抑えられない。

「僕が・・・感じてるのと・・・同じように・・・」

キスの合間に、欲望に掠れた声で途切れ途切れに囁かれ、背筋がぞくぞくする。

「あ・・・私・・・」

何か言わなくてはと開きかけたリンデの唇は、すぐに唇で塞がれた。

「何も言わなくていい。ただ、受け入れて・・・」

体中を優しくさすられ、ぼうっと霞がかったように感じる頭で、耳元の囁きを聞いていた。

「君が欲しい・・・ずっと欲しかった・・・君の事を丸ごと全部・・・」

切実な響きに、胸を締めつけられる。クリスの右手がリンデの左の乳房を包んで揺らした。

「どんなに君を求めていたか、君は知らなかっただろう・・・城の舞踏会で君が他の男達と踊っているのを見て、嫉妬で気が狂いそうだった・・・君が僕ではなく、国王のものになると思った時、僕はあいつを殺してやりたいと思った」

急に強く乳房を掴まれ、リンデは悲鳴を上げて身を引こうとしたが、クリスの左腕はそれを許さなかった。

「エリーザベトが来るのがもう少し遅かったら、そうしていたかもしれない」
「エリーザベト?」

リンデは体を硬くした。別に、クリスと彼女の間に何かあるとは思わない。でも、彼女がわざわざクリスを訪ねるようなどんな理由があるのだろう?この、胸の中が不規則に波立つような嫌な気持ちは何?

「そうだ。あいつはろくでもない女だが、国王の命を救ったわけだ。だがそんなことはどうでもいい」

リンデの内心の不穏に気づく様子も無く、クリスは強く掴んでしまった乳房をいたわるように撫でさすり、舌を出して舐めた。

「っ、あ・・・」

ざらりとした感触に、全身に震えが走る。思考が途切れ、気が遠くなるような感覚―不安と熱望が入り混じった不思議な感覚。

「君が身を犠牲にして国王に嫁ごうとしていると聞かされ、僕は、君を取り戻さなければならないと思った。バカだと言われたよ。そんなこと君の本心のはずがないって・・・」

ぷくりと膨らんでラズベリー色に染まった頂上を2-3回軽く舌先でつついた後、クリスはそれを唇に含んだ。

「あ、ぁん」

クリスの口の中で嘗め回された突起はますます張って、痛いほどの刺激にリンデはすすり泣いた。エリーザベトへの不快感は既にどこかへ吹き飛んでしまっていた。クリスは咥えていた突起を放し、もう一方の頂に移動しながら、苦しげに呟いた。

「そうだ、僕はバカだった・・・君の心を誰よりも知っていたはずだったのに・・・君と離れることなど、できるはずもないのに!」

渾身の力で抱き締められて肌を強く吸われ、リンデは息が止まりそうになる。リンデの知るクリスはいつも穏やかで、リンデに対しても包み込むように優しかった。こんなに激しいところがあるなんて、さっきまで全く知らなかった。それでも、嫌ではなかった。他の人にはたぶん決して見せる事のない激しさを、自分には見せてくれている・・・そう思うと、胸が熱くなった。

ふいにクリスが膝でリンデの脚を割り、片脚を差し入れた。クリスの欲望の証が太腿に押し当てられ、リンデは一瞬、先程の痛みを思い出して身を竦めた。しかしクリスは先を急ごうとはせず、割り込ませた膝をリンデの中心に押し付けて刺激しながら、尻から太腿にかけてゆっくりと撫でた。先刻の性急さとは明らかに違う、優しくいたわるような、それでいて何かを呼び起こそうとするような動きに、リンデの心と体が次第に解きほぐされ、温められていく。と同時に、リンデは体の中心に火がついたような熱情を感じた。

奥深くから止め処なく湧きあがってくる欲望―これが欲望というものだとリンデは初めて知った―に動かされるまま、鍛えられた体に手を滑らせる。そっと背筋に這わせた指の下で硬い筋肉がぴくりと反応した。首筋を撫で上げ、僅かに癖のある黒髪に手を差し入れて軽く梳くと、クリスが唸り声のように低く喉を鳴らしてその手を掴んだ。

「やめてくれ、リンデ」

何かまずい事をしたかと恐る恐るクリスの顔を窺うと、情欲で暗く翳った瞳がじっと見下ろしていた。

「誘われると我慢できなくなる。充分時間をかけたいんだ」
「ああ、クリス・・・」

リンデは溜息を洩らし、掴まれた手を動かしてクリスの頬を捕らえた。

「我慢しないで・・・」

クリスの顔を引き寄せて口づけ、それから体を反らして自分の胸に押し付けた。

「・・・お願い・・・」

クリスは苦しげに呻き、押し付けられた柔らかなふくらみを舌で愛撫しながら、素早い動きでリンデの脚を大きく開き、体を割り込ませた。クリスの腰がゆっくり動かされ、昂ぶりの先端がリンデの花園をつついて刺激する。しかしやはり中に入ろうとはせず、じらすように周囲を探られて、リンデは身悶えた。

亀裂の端の感じる部分を熱いものがかすめて、びくびくと体が震える。弾力のある先端が、とろりと溢れ出した花の蜜を纏わりつかせ、塗り広げるようにそこを往復した。押し寄せる快感でリンデは朦朧としかかっていた。体が溶け出し、世界と、そしてクリスと、混じり合っていくような気がする。体の線をなぞるように這うクリスの手だけが、辛うじてそこにリンデの体があることを認識させていた。

リンデの背中を抱き寄せるように這っていた手が不意に滑り降り、丸い尻を撫でて後ろから両脚の間に入り込んだ。リンデが心の準備をする間も無く、長い指先が襞を割って内側を弄った。

「あっ!」

前後から同時に責められ、リンデは逃れようの無い快感に身を捩った。逃げ惑うように腰を動かし、かえって刺激を呼び込んでしまった。自分のそこが待ちきれないと言うようにひくひくと蠢いてクリスの指を締め付け、恥ずかしさで余計に混乱する。なんとか気持ちを落ち着かせなければと、クリスの肩を押して腕から抜け出そうとしたが、クリスは放すどころか体重をかけてリンデを押さえ込み、指を増やしてますます深く埋め、中を探った。

「っっっ!!」

ある一ヶ所を強く押されて、リンデは声も無く仰け反った。
 
 
 

クリスは押し入りたい衝動を必死に制止して、リンデの心と体を燃え立たせることに集中しようとした。が、それも既に限界だった。リンデの洩らす甘やかな喘ぎ声が周囲の岩壁に反響してクリスの脳に降り注ぎ、思考を狂わせる。仄かな闇の中に白く浮かび上がる裸体は、クリスの下で優しく、そして妖しく踊り、圧倒的な引力でクリスを誘い込もうとしていた。

ついにクリスは耐え切れず、秘められた亀裂の奥に自身を滑り込ませた。クリスの努力の―辛抱の―甲斐あってか、そこは温かく蕩けて、先程よりは抵抗無くクリスを包み込んだ。

「う・・・くっ・・・」

強烈な快感にそのまま持っていかれそうになるのを、歯を食い縛ってこらえる。

「ん・・・んん・・・」

肩口でくぐもった声が聞こえ、リンデがぎゅっと目をつぶって、声を上げまいと唇を噛み締めているのに気づいた。小さな手が細かく震えながら強くクリスの腕を掴み、爪を食い込ませる。物理的にはたいした痛みではなかったが、たまらない愛しさに心が疼き、気遣う声が掠れた。

「辛いか?」

ぱっと見開かれてクリスを見上げた瞳は熱っぽく潤み、まるでもっと欲しいとねだられているようで、ぞくぞくした。必死に自制心を掻き集め、きつく噛み締められたリンデの唇に指を伸ばしてそっと撫でた。

「声・・・出していいから・・・」

ふっと息を吐いて力を抜いたリンデを優しく、しかし情熱を込めて抱き寄せ、すぐにも全てを貪り尽くそうとする自分の体を何とか抑えて、クリスは慎重に腰を進めた。緩やかに、規則的に揺すり上げると、動きに合わせてリンデの唇から短く甘い声が洩れる。

「君は、温かくて・・・柔らかい・・・」

抑制された律動を続けながら胸の先をそっと噛むと、リンデが身震いして、クリスを包んでいる場所がきゅっと締まり、彼女が感じていることを伝えた。

「分かるか?今、僕達は、一つだ」

欲望で掠れた声で囁きながら、片手でそこをすっと撫でると、リンデは堪りかねたように首を振った。動きを抑えようとしても、自然に速くなっていくのを止められなかった。

「いつか、必ず、君と結ばれると・・・僕は信じてた。・・・君は、僕の・・・運命だ」
「・・・私・・・」
 
 
 

浅い呼吸を繰り返しながら、リンデは言いかけた言葉を切った。でも打ち明ける時は今しかない。リンデは恥ずかしさをこらえ、苦しい息の合間に、喘ぐように告白した。

「私もクリスと・・・結ばれたい、って、思ってた・・・」

リンデの中でクリスがどくんと大きく脈打った。クリスの重みが増し、リンデを揺する動きが一層激しくなる。リンデは広くしなやかな肩をぎゅっと抱き締めてしがみついた。

「クリスとだけ・・・クリス以外は、絶対にイヤ・・・」
「君は僕のものだ」

一気に奥まで貫かれて、リンデはクリスの肩を強く掴んで仰け反り、叫び声を上げた。

「誰にも渡さない・・・絶対に渡さない」

クリスは暴れ馬のように荒々しくリンデを突き上げた。もう完全に抑えが利かなくなっていた。

「僕が・・・僕が、君を守る」

呼吸と動悸が極限まで早まる中、クリスは切れ切れに声を絞り出した。

「僕から・・・離れるな・・・リンデ・・・っ」
「う・・・ん、んんっ」

リンデは押し寄せる強烈な波に翻弄されながら、クリスの首にかじりついて喘いだ。容赦ない律動が狂気のような歓喜を呼び起こす。長い、引き締まった脚を愛撫するように自分の脚をこすりつけ、ぴったりと重ねた体全体でリズムを感じ取り、擦り合わせた。クリスの要請に応えて、というよりは自らの心が求めるままに。繋がった箇所から粘性の高い液体が溢れ、お尻の方へと肌を伝って滴り落ちていくのが分かった。クリスに突き上げられるたび、鋭い感覚が体を突き抜け、リンデを想像もしなかった高みへと力強く押し上げていく。

「はっ・・・離れたくない・・・あっ・・・離さないでっ・・・クリス・・・っ・・・ああぁっ!」

瞼の裏で白い光が弾け、リンデは昇り詰めた。
 
 
 

激しく痙攣するリンデの内部に引き絞られるようにクリスは自らを放出し、再び彼女を満たした。華奢な体を力いっぱい抱き締めて尽き果てたクリスは、下半身を震わせてその上にぐったりと圧し掛かった。それでもなんとか体を下にずらし、まだ強張りの残る自身を引き抜いたが、頭をリンデの胸に乗せたきり動けず、そのままそこで激しく息をついていた。さっき、一方的に奪った時よりもっと消耗していたが、愛し合った悦びもずっと大きかった。クリスは大きく息を吸ってゆっくりと吐き、お互いに充たし、充たされることがもたらす穏やかな幸福感に身を委ねた。
 
 
 

リンデは、溶けきった体の上に、上空を漂っていた魂が鳥の羽のようにゆっくりと舞い降りてくるのを感じた。魂が再び体に収まり、クリスの息が落ち着いた頃、リンデはそっと声をかけた。

「クリス・・・?」
「・・・なんだ?」

胸の上で半分まどろみながら答えたクリスの黒髪を撫でつつ、リンデはためらった。

「ううん。なんでもない」

クリスは閉じかけていた瞼を持ち上げ、リンデに頭を凭せ掛けたまま、顔だけ上げてリンデの顔を見た。

「なんだ?途中でやめないでくれ」

髪を撫でていた手を止め、リンデはじっとクリスを見つめた後、ふわっと柔らかく微笑んだ。

「ずっと一緒にいるよ・・・どんな時も・・・何があっても・・・」

クリスははっと息を呑み、急に目が醒めた様子で腕をついて身を起こした。そして泣きそうな顔で強くリンデを見つめ返していた後、再び彼女の胸に顔を埋め、無言で抱き締めた。
 
 

クリスの肩が小刻みに震え、リンデは自分の胸が熱く濡れていくのを感じていた。それはリンデが初めて見たクリスの涙で、クリス自身、もういつ以来か分からないほど久しぶりに流した涙だった。静かに自分の胸を濡らし続けるクリスを、リンデは両腕でそっと包み込んだ。
 
 

リンデは、本当は、クリスが一人で何もかも背負い込もうとしているようなのが気にかかっていた。いつも全ての責任を一人で被り、大切なものを一人で守ろうとするクリス・・・でも、一人で戦わないでと、リンデは言いたかった。この愛は二人で守っていくのだと、クリスが戦うなら一緒に戦いたいと、伝えたかった。しかしリンデはただ、クリスを腕に抱き、優しく頭を撫でた。今はまだいい。いつか、その時が来たら・・・それまではクリスを温めてあげよう。私の心と、体の全てで。クリスの心が再び孤独の闇の中で凍ってしまわないように。いつも、どんな時も、クリスを愛している私がいるのを、感じてくれるように。そしてそれがいつかクリスの『恐れ』を消し去ってくれるようにと、リンデは願った。


 
 
 
 
 

 目次 Inhaltsverzeichnis