ふぁきあを寝かしつけた後、リンデはおやつと林檎酒を持って外に出た。
ふぁきあは「おとうさんは、おしごと」と言っていた。たぶん、狩の道具の手入れをしているのだろう。
クリスは、危ないからという理由もあるだろうが、ふぁきあの前では絶対にやらないのだ。
リンデが裏手に回りながら呼びかけると、小さな納屋の中から返事があった。
開けっ放しの扉に近寄って中を覗く。納屋は本当にささやかなもので、床半分荷物を置くと、
あとは大人一人がやっと通れる程の幅しかないが、いつもきちんと整頓されている。
一番奥の長持のところにクリスが上半身裸で屈み込み、鏃を取り付けた矢の束をしまっていた。

「ちょっと待ってくれ。こいつを片付けてから行く」

リンデは持っていた物を静かに脇に置き、クリスの背中にそっと近づいた。
狭い小屋の中は蒸し暑く、筋肉の張った広い背中には汗が粒になって浮かんでいる。
その一粒をリンデは身を乗り出してぺろりと舐めた。
意表を衝かれたクリスが、前かがみの姿勢のまま固まる。
リンデはさらに大胆になり、両手をクリスの脇に当てて、背筋に沿って舌を這わせた。

「リンデ・・・」

クリスの声が掠れる。リンデは答えずに熱い肌の上に舌をうごめかせ続けた。

「今すぐやめろ。さもないと・・・」
「さもないと、何?」

リンデが背中から唇を浮かせてささやいた途端、クリスがリンデの手を掴んで体を起こし、
リンデを引き寄せつつ体を1/4回転させて圧し掛かった。

「こうする」

ばんざいの格好で壁に押し付けられたまま、リンデは唇を開き、むさぼってくる唇に答えた。

「かまわないよ・・・」

舌を絡ませながら答えるリンデの声も掠れた。

「じゃあ、もっとだ」
「あっ」

耳元に舌を差し込まれてリンデは身を捩った。
クリスがリンデの顔中をせっかちについばみながら呼吸を荒くして尋ねる。

「ふぁきあは・・・?」

リンデも息をあえがせて答えた。

「おひるね・・・」

クリスが慌しくリンデの体を弄り、うなじにキスの雨を降らせる。
既にリンデの体もじっとりと汗ばんでいる。
肌に張り付く薄い生地の上から柔らかなふくらみを揉んでいたクリスがもどかしげに唸り、
前の紐を乱暴に引っ張って胸元を引き開け、片方の先端を直接口に含んだ。

「んっ、あっ!」

リンデは頭を仰け反らせて壁に押し付け、クリスの頭を挟んだ手をぎゅっと自分に引き寄せた。
舌の動きがますます貪欲になり、絶え間ない鋭い刺激が狂おしいほどの熱を掻き立てる。
誘いかけるような愛撫の手は、反らせた背中からきゅっと持ち上がったお尻へと伸びて行き、
やがてせわしなくスカートを捲くり上げる。
たくし上げた布をリンデの背中と壁との隙間に押し込み、剥き出した太腿を撫でて脚を開かせ、
長い指が、既にとろりと潤った秘めやかな場所を探った。

「あ・・・あァ・・・はァッ・・・ん・・・」

脚の力が抜けてくずおれそうになり、リンデはクリスの体に両腕を巻きつけてぎゅっとしがみついた。
クリスが人差し指と薬指で花びらを開いて押さえたまま、早口で呟く。

「いくぞ」

リンデが答える間も無くクリスが勢いよく入ってきた。そのまま一気にぐいぐいと奥まで押し込む。

「やっ、あ、ああ・・・」

まったく、昨日のように許可を待つならともかく、待てもしないのにいちいち言うところがおかしい。
でもそれもクリスらしいと言えばらしいかも。
一瞬ぼんやりとそんなことを考えたが、クリスがリズミカルに動き出すと、あっという間に興奮の渦の中に引き戻された。
リンデはほとんど爪先立ちになりながら、自分を突き上げる強い躍動に自然と同調し、
忘我の波に身を委ねて一緒に高みを目指す。

「リンデ・・・リンデ・・・」

激しく苦しげな呼吸が耳元で響き、甘い疼きが快感に震える身の内を走る。
愛しい人とこれ以上はないというほど親密に触れ合っているというのに、もっと近づきたくて堪らなくなった。
リンデの体は逞しい腰に支えられ、力強い腕に抱え上げられるようにして、今や完全に宙に浮いている―彼女の心と同様に。
リンデは再び両腕に力を込めてぎゅっと抱きつき、片脚を、
自分の脚の間に割り込んでいるがっしりとした脚に沿って上げ、硬い太腿に巻きつけた。
すると挿入が深くなり、クリスの先端が最奥部に届いた。

「ああ・・・リンデ!」

クリスが叫び、一層激しくリンデを揺さぶった。

「・・・クリス・・・クリス・・・あ・・・あァ、ああァッ!」

リンデの意識が真っ白にはじけた次の瞬間、クリスがリンデの体を掴んで思い切り引き上げた。
クリスが放った情熱がリンデの太腿を汚し、ほっそりした脚を伝って滴り落ちる。
数瞬後、二人は壁に沿ってずるずると床に滑り落ちた。
 
 
 

「早くしないと、ふぁきあが起きてくるぞ」

クリスはもう湖から出て、服を身に着けつつある。
彼の焦った声がおかしくてリンデは含み笑いをしながらも、知らん顔でぱしゃぱしゃと水を跳ね上げていた。
クリスが再びたしなめる口調で呼んだ。

「リンデ」

「だいじょうぶ。起きてきたら泳ぎを教えてもらってたって言えばいいんだもん」
「まだ諦めてなかったのか?」

クリスが呆れ顔で言ったので、リンデは口を尖らせ、くるりと背を向けた。

「いいじゃない、別に」

湖の中央に向かって水を掻きながら進み出したリンデの背中を、先程とは違ってあきらかに本気で焦った声が追ってきた。

「よせ、リンデ、溺れたらどうする」
「だいじょうぶ」
「そんなわけないだろ」

真っ直ぐ前を向いたまま答えたリンデの背後で、クリスの苛立った声と履きかけたブーツを脱ぎ捨てる音が聞こえた。
リンデは意味ありげな表情で振り返った。

「だって私が溺れたら助けてくれるって、約束したもん。ね?」

クリスが、あっ、という顔になった。

「だからだいじょうぶ。でしょ?」

リンデが小首をかしげてにっこり笑いかけると、クリスが口を開きかけて一度閉じ、それから憮然とした表情で言った。

「溺れるようなことをするな。そうも言ったはずだぞ」
「そうだっけ」

リンデはいたずらっぽく笑い、クリスはやれやれと言いたげに溜息をついた。


 

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