Die Schlafgeschichte 寝物語
「『...そのどっしりとした塔のような門の中に進んで行くと、中はがらんどうで、外とは打って変わって薄暗く、ひんやりとしていました。そこを通り抜けたとたん、果てしなく続いた荒野から、一瞬にして別の世界に来たようでした。お城の内側は、質素で堅牢な外見からはおよそ想像もつかないほど、繊細な華やかさをたたえていました。庭にはオレンジがたわわに実り、バラやジャスミンやそのほか色とりどりの花が、うっとりするような香りを漂わせています。建物は床から天井に至るまで、一面、美しい装飾で覆われ、よく見ればそれらの装飾に溶け込むように、あちらこちらに神をたたえる言葉がちりばめられています。それらは、このお城全体が、神への祈りであることを示しているのでした』」
「くわぁー。ステキだね。きっとみんなびっくりしただろうなぁ」
「そうだな。『そこの人々にとって、神を賛美することは神の創った自然を賛美することでした。星や草花をかたどった装飾を形作る無数のタイルや彫刻には、一つとしてまったく同じ色形のものは無く、それでいて見事な調和を醸していました』」
「そっか。自然のものは、葉っぱの一枚一枚も、みんな違うもんね」
「ああ。『そうしていくつもの噴水が中庭や部屋の中にまで設けられ...』」
「部屋の中に?部屋が水浸しになっちゃわない?」
「ここの噴水は、金冠学園にあるようなのとは違うみたいだぞ。『いくつもの噴水が中庭や部屋の中にまで設けられ、床にはめ込まれた円くて浅い水盤の中心から清らかな水が絶えず湧き出し、水盤を満たしては、細い水路に流れ込んでいました。城中に巡らされた決して枯れることのない静かな流れや、あまたの池は、まるでこの秘められた楽園を息づかせる澄んだ血流のようでした』」
「ふうん。じゃあどこでも水が浴びられるね!」
「み、水を浴びる?」
「何うろたえてんの?」
「別に...ちょっと思い出しただけだ」
「?お城の周りにはあんまり水が無いんでしょ?そしたらきっと鳥たちもいっぱい来るよ」
「ああ、たぶんな」
「みんな一緒が楽しいよね!あっそうだ、ここのお姫さまたちも池で泳いだりしたのかな?」
「いや、この後の話に出てくるが、この国では高貴な女性は人前には姿を現さないんだ。建物の2階の、表からは見えないように格子がはめ込まれた窓から、庭の様子を眺めるだけだったらしい」
「そうなの?つまんないね...あれ、でもここって暑いトコなんだよね?じゃあ汗を流したい時なんかは、お部屋でお風呂に入ってたの?」
「そういう時はハマムがある」
「何それ」
「蒸し風呂...みたいなもんだな。ずっと後の方に書いてあった...ああここだ、『いくつかに区切られた小部屋には窓がなく、高い天井に並ぶ星型の穴から光が射し込むようになっていました。一番奥の部屋の隅に置かれた湯船から蒸気が立ち上り、湯船や床のハーブの香りと一緒になってハマム中を満たしています。その部屋が一番熱く、一番手前のあまり温度の高くない部屋は着替え用で、その間の部屋で人々は体を洗ってもらったり、マッサージをしてもらったり...』」
「あふぁ...なんか想像したら...気持ちよくなって...眠くなってきちゃった...」
「おい、あひる、まだ読み始めたばっかり...あひる?あひる?...はぁ...まあいいか。おやすみ、あひる。いい夢を見ろよ」