Sheherazade シェエラザード
「ねぇふぁきあ、今度ふぁきあがやる『シェエラザード』ってどんなお話?」
「そうだな...前に聞かせてやった『千夜一夜物語』って覚えてるか?」
「うん!空飛ぶじゅうたんとか魔法のランプとかのお話だよね」
「そうだ。だがあの物語全体の主人公は、ある女性不信の王だっただろ?」
「そうだっけ?」
「ほんとに人の話を聞いてるのかお前は...まあいい、とにかく、王は夜ごと違う女性を寝床に呼び、朝になると殺してしまっていた。だが、シェエラザードだけは、彼女が語る物語があまりにおもしろかったので、殺すのを一日一日先延ばしにしているうちに、王の心も和らいで彼女を妃に迎えた、っていうのが『千夜一夜物語』の大きな骨組みになってる」
「へぇー。そういうお話なんだ」
「『千夜一夜物語』の方はな。だがこのバレエは、『シェエラザード』って曲が使われてるし、プリマも『シェエラザード』って名だが、話はどっちかって言うと『千夜一夜物語』の背景にあたる部分だな。題材になってるのは、王が女性不信になった原因の、前の妃の不義密通事件だと思う」
「フギミッツウ?て何?」
「簡単に言うと浮気だ。王妃は王の留守中に奴隷と、その、関係を持つ。それを知った王は激怒し、王妃も奴隷も殺してしまう、って話だ」
「なんかコワイ話だね...」
「まあな。だが昔はアラビアに限らず、密通は晒し者にされた上で死刑ってことになってたからな。もっとも現実には、王の妃には宦官しか近づけないから、間違いは起こりようがなかったんだろうが」
「カンガン?」
「ああ、ええと、男だけど男じゃない家臣のことだ」
「?。どういうイミ?」
「...気にするな。それ以上は俺には説明できない」
「そうなの?よくわかんないけど、まあいいや。それでふぁきあは?何の役?」
「奴隷だ」
「じゃあ、あんまりいい役じゃないね」
「いや、一応主役なんだが...」
「そうじゃなくて、だって王様を裏切る役でしょ?ふぁきあらしくないじゃない。ふぁきあって、忠誠心のカタマリだもん」
「関係ないだろ...」
「だって、みゅうとのプリンセスだって分かっててるうちゃんと浮気できないでしょ?」
「お前な...そりゃるうのことは絶対そんなふうには思えないが、だからってみゅうとと同じ相手を好きになることがなかったとは言えないだろ。誰かを好きになるのにそういうのは関係ないんだから」
「そうなの?ふぁきあもそういうことあった?」
「...聞くなよ、バカ...」