クリスは焦っていた。
一刻も早くパルシファルに話をしたい―いや、しなければならないのに、 一昨日都に戻ってきてから、まだ、彼を捉まえられないでいる。(今日こそは・・・)
固い決意で、クリスはパルシファルを探した。
「パルシファル、聞いて欲しいことがあるんだ、少し時間を・・・」
「悪い、また後で」またしてもパルシファルは、別の友人達と話しながら、そそくさと逃げるように去っていく。
「待ってくれ、いつなら・・・」
そこに計ったように都合よく通りかかったヴォルフラムが声をかける。
「パルシファルは忙しいんだよ。結婚のことでね」
クリスがゆっくり振り返る。
「・・・なんの話だ?」
眉間に皺を寄せてヴォルフラムを見据えるが、ヴォルフラムは一向に気にしない。
「御成婚の準備に決まってるだろう?・・・ああそうか、君は帰ってきたばかりでまだ知らないんだな。パルシファルの妹・・・フリーデリケとかいったか?彼女が王妃に選ばれたんだよ。だからその準備さ」
クリスの顔色が変わった。
「そんなバカな・・・」
「どうしてだ?既に引退されたとはいえ、宰相閣下の姫だ。何も不都合は無いと思うが」
「宰相の姫・・・フリーデリケ・・・?」自問するようにクリスが呟く。
「さっきからそう言っているだろう、何度も言わせるな」
ヴォルフラムがいらいらと答える。
「エリーザベトが選ばれなかったのは残念だが、まあ仕方ない。パルシファルの妹なら妥当なところだ」
そう言いながらもヴォルフラムは悔し気な様子を隠せないが、クリスはそれに気づく余裕も無い。
「それは・・・決まったことなのか?彼女の方も承諾したのか」
「勿論。とっくに公式発表されている。今頃は国境辺りにも知らせが届いているだろう」かくしてヴォルフラムは、衝撃で立ち尽くすクリスという、世にも珍しいものを拝む機会を得た。