Ar Hyd y Nos



 
星一つ無い闇に包まれた黒い森の中で、十数人の男達が焚き火を囲み、野営している。
まだ秋の口とはいえ、夜風に耐えるにはやや簡素な兵卒の軽装で、それぞれに寛いでいた男達は、
やがて一人の仲間に歌を所望した。
請われた男は一度は辞退したものの断り切れず、
別の仲間が奏でる一本の素朴な笛の音を伴奏に、故郷に伝わる古い民謡を口ずさみ始めた。
その途端、辺りを覆っていた硬く冷たい夜の空気は、
太く、朗々と響く歌声に満たされ、温かく輝かしいものに変わった。
ぽつぽつと世間話をしていた男達も、皆、口をつぐんで男の歌に聞き入り、
時折混じるのは、火の中で枯れ枝がはぜる音と、木々の上を吹きぬける風のささやきのみ。
 

そして、故郷に残した恋人に呼びかけるその歌は、
彼らの姿が森から消えた後も、永く残った。


 

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