冬の夜



 

気だるく腕を伸ばして、暖炉に薪を放り込んだ。
一瞬置いてぱっと火の粉が舞い、辺りを照らす。
乾いた針葉樹が静かにはぜる音と、爽やかな芳香。

乗り出した上半身の下で、ほっそりした体がかすかに身じろぎ、温かな素肌が擦れ合う。半分夢うつつで仰向けに寝そべった彼女が、彼の体をゆっくりさするように―気のせいか、やけに官能的な手つきで―撫ぜてきた。

「寒い?」
「・・・いや」

声が微妙にうわずった。
今、手が胸の突起をかすめたのは偶然か?

「君が・・・寒いかと」

暖炉の前の即席の寝床は、冷たい木の床に、毛皮と毛布を重ねただけのものだ―たとえその毛皮が彼の収穫の中で最高のもので、我ながら王宮に敷いても恥ずかしくないと思うくらい、厚くて立派なものだったとしても。底冷えのする冬の夜気は、彼女がその柔肌を惜しげも無くさらすには厳しすぎる。ただし、わずかに言いよどんだのは、本当はもっと不純な―ひどく彼の気をそそる裸体をもっとよく見たいという―動機もあって火を熾したからだ。

彼女が目をつぶったまま満足げに微笑み、使い込んで柔らかく慣れた毛布の上で身をくねらせた。

「ううん・・・あったかくて・・・気持ちいいよ・・・」

炎に映えて波打つ長い髪、淡い陰影を湛えてなまめかしくしなる白磁の肌。彼は思わずごくりと唾を飲み、その、天国の光景に見入った。細身の天使の柔らかな曲線を舐めるように見下ろしていくと―その味が舌によみがえる―ふと、すらりとした脚の間の薄い茂みに、細かな白い雫が真珠のように輝いているのが目に入り、ぞくっと震えが走った。

一度では足りない。もう一度―できれば二、三度―奪わないと。今すぐ。そしてもっとぐっしょり僕のを・・・

想像しただけでその場所がぐっと持ち上がり、準備万端になる。自分がこれほど好色だったとは、自分でも知らなかった。なにしろ昔は堅物と言われていて―面と向かって言われなくても、自分が何と噂されているかくらいは分かる―結婚前にはこんなことは戯れにもしたことがなかったし、それで何の問題も感じなかった。ところが彼女に包まれる快感を、溶けてしまいそうな熱さと恍惚を知った途端、それに取り憑かれた。あれからもう何年も経つというのに、その欲求はいっこうに衰えることを知らず、と言うか、前より一層ひどくなっている気がする。

「そうか。ああ。それは・・・よかった。いや、ええと・・・じゃあ・・・」

意味不明の言葉をつぶやきながら、乾いた唇を湿すように舌なめずりする。ぶるっと身震いして、元通りに彼女の隣に横になりかけていたのを止め、上体をそのまま倒して、覆い被さるようにのしかかった。

「んん?」

ごそごそと怪しい動きをする彼に、彼女がすぐ気づいた。

「また?もう?ついさっき・・・」

呆れたように囁きかけた唇をさっさと覆って、言葉を自分の唇に飲み込む。

「『さっき』じゃない・・・もう・・・ずっと前だ。君は・・・うとうと、してたから」

せわしなく二つのことに舌を使っていると、くすくすと笑っているような細かな振動が舌に伝わってきた。

「いいよ、別に・・・そうしたいなら、いつだって・・・」

小さなお尻をぐっと掴んでいきなり突き入れ―そうになったが、危ういところで踏みとどまった。ダメだ。さかりのついた動物でもあるまいし―実際にはまさにそうなのだが―気持ち良く受け入れてもらえるようになるだけの充分な快感も与えないまま、あさましくも性急に己の欲望を満たそうとするなど、淑女に奉仕すべき騎士にあるまじき行為だ。実生活でどうであれ、心の中では、彼女の騎士としての誇りは捨てていないのだから。いくら彼女の体は僕に慣らされているとは言え・・・そうだ、それに今なら、さっき彼女も達したばかりだから、まだ・・・

自分が言ったことの矛盾に気づく余裕など、彼にはまったく無かった。どくんどくんという激しい脈動が彼を急き立てる―心臓以外の場所で。今にも発火しそうに熱を持ち、先端をまっすぐ目標に向けてぴんと張り詰めて。

「・・・いい、よ・・・」

首筋をくすぐるように、滲んだ汗を舐めとられ、思考が吹き飛んだ。体勢を変えて一気に貫こうと思い切り足に体重をかけ、痛みに膝を折って崩れ落ちた。

「・・・っ・・・!」

足首を痛めていたのをすっかり忘れていた。さっきは夢中になってしまう前に、ちゃんと負担がかからない体位を定めていたので、このいまいましい痛みにわずらわされることもなかったのだ。

「・・・う・・・ああ、くそっ・・・」

すごすごと身を引き、足首を抱えて座り込む。

・・・天使に無体を働こうとして、天国から落っこちた。

「だ、だいじょうぶ?」

何事が起きたのか分からず固まっていた彼女が慌てて起き上がり、心配そうに覗き込んできた。

「大丈夫だ。たいしたことない」
「でも・・・」

柔らかい手が、小さな子をなだめるように、こわばった腕を遠慮がちに撫でる。

情けない。不注意でこんな醜態をさらすとは。しかもこのタイミングで。

「すぐに治まるから気にするな」

華奢な肩に手を当てて寝床に押し戻そうとしたが、軽く払われてしまった。

「見せて」
「見てどうする?必要な手当てはしてある。これ以上はほっとくしかない」

そう言いながらも、彼女が後に退かないことは分かっているので、手を後ろにつき、痛めた足をのろのろと彼女の方へ伸ばした。彼女は、薬布を巻いた足首を両手で挟んでその上にかがみこみ、薄明かりの中で怪我の様子を探ろうと、顔を近づけてじっと見ている。丸い肩から落ちた柔らかな髪が足をくすぐる。患部をふんわり包み込む掌からじわりと温かみが広がり、痛みがすっと遠のいた。

「もう痛くない」

ぼそりと言うと、彼女がぱっと彼を見て顔をしかめた。

「またそんなこと言って・・・」
「本当だ」

大真面目に断言する彼を、彼女はちょっと唇をとがらせて疑わしそうに見つめたが、肩をすくめて納得した。

「わかった」

ところがおとなしく手を引っ込めるかと思いきや、彼女はそのまま唇を寄せ、彼の足の甲に口づけた。

「おい、よせ」
「もう痛くないんでしょ」
「そうじゃない」
「じゃあ、痛みが飛んでくおまじない」
「だから、そうじゃないって・・・」

妙にうろたえて、逃げようと身じろいだが、文字通り足をとられているのでどうしようもない。それになんと言うかとても・・・気持ちいい。足元が、甘く温かな雲に包まれるようだ。うっとりとその快感に身を任せているうちに、雲が少しずつ上の方へと這い上がってきた。それも、やっぱり、気持ちいい。どんどん気持ちよくなる。だんだん、再び、高く、天に、登って・・・

「ああ・・・」

今や彼女の唇は彼の太腿のあたりをさまよっていた。脚が自然に開いていく。誘惑の雲を引き入れようとするかのように。内側の無防備な肌に規則的に吹きかかるそよ風が、熱い。

「・・・うう・・・」

思わずうめき声をもらした彼の顔を、彼女がちらっと見た。

「だいじょうぶ?」
「・・・大丈夫・・・じゃない・・・」

彼女がぴたりと動きを止め、顔を上げた。と同時に、とろけるようなそよ風も消えた。

「じゃ、どうすればいい?」
「やめ・・・るな・・・頼むから・・・」

自分のものとは思えないしわがれ声で息も絶え絶えに呟くと、邪気のない可愛らしい顔が嬉しそうにほころんだ。

なんて天使だ!

だが、声に出してたしなめることはできなかった。彼女が再び頭を下げ、待ち望んだ柔らかな唇と熱い吐息を感じる。今度はへその真上・・・それから湿った舌がその周りに沿ってくるりと動き、彼はびくんと震えた。はずみで、すぐ傍まで勢い良く屹立していたものが彼女の顎をつつく。

まずい。
彼は不意に、この次に来るであろう展開に気づいた。慌てて彼女を引き止めようとしたが、なぜかこんな時に限って足首のことが頭をよぎり―たぶん、皮肉な話だが、ついさっき痛い目に遭ったせいだ―一瞬反応が遅れた。その一瞬の間に、へその下から続く黒い陰りに舌が差し入れられ、と思うまもなく衝撃が全身を駆け抜け、弓なりにのけぞった。

・・・ああ!

数え切れないほど彼女と愛し合ったが、その場所にだけは口をつけさせたことがなかった。そしてそのことを彼女はいつも、不公平だと憤慨していた。彼は頑固に譲らなかったが、彼女も絶対にあきらめない性質だった。だから彼は、危うい状況になりそうな時は、充分用心していたのだ―今日までは。

「や・・・やめ、ろ・・・」
「イヤ」

にべもない返事とともに、弾力のあるもので先端を軽くはたかれ、叫び声を上げそうになる。ぐっと全身を強張らせてどうにか耐えたが、その間にも彼女は、彼が硬直していて抵抗できないのをいいことに、好き放題に彼をもてあそんでいた。つうっと根元まで湿った熱を走らせてはまた戻り、気に入ったところで動きを止めて、凹凸をなぞるように舌先を使う。段差の場所は特に念入りに、ぐるりと舐め上げた。そのあまりに衝撃的な光景に彼は呆然とするばかりで言葉も出ず、しかも右手はどういうわけか、がっしりと彼女の頭をつかんでいる。それが彼女を押しのけようとしてのことなのか、それともさらに引き寄せようとしているのか、自分でも分からなかった。

ああ、なんてことだ、ちくしょう、こんな・・・良すぎる。

嵐のような快感に身をよじり、悶えあえぎながら、彼は、これが興奮の限界だと考えていた。しかしすぐに自分の間違いを思い知らされた。彼女が唇を滑らせてそれを含み、リズミカルに吸い始めると、もう何も考えられなくなった。彼女は一時も休まず彼を責め立て、崖っぷちへと追い詰めようとしていた。ただそれは大きすぎて口に余るらしく、時々ぷるんと唇からこぼれ出てしまう。それがまたよけいに刺激になって、彼を狂乱へと駆り立てる。彼はもう、崩れ落ちる一歩手前だった。このまま続けられたら、頭も体も粉々に砕け散ってしまう。

「もう・・・ダメだ・・・わかった・・・から、もう・・・勘弁してくれ・・・!」

彼を含んだままふふっと洩れた吐息が芯に響き、一気に登り詰めてしまいそうになる。彼は左手で脇の毛布を力いっぱい握り締め、歯を食いしばってこらえた。

「ん・・・まあ、いっか」

すっと冷たい空気が触れ、やっと甘美な責め苦から解放されて、彼は背中から後ろに倒れこんだ。

こんなに・・・くるものなのか。一日中馬を走らせても、これほど消耗したことはない。

ぐったりと顎を上げて頭のてっぺんを床につけ、目を閉じて、荒く息をついた。

・・・絶対にこのお返しはしてやる。少し休んで体力が回復したら、彼女のを開き、舌を根元まで埋めて、泣いて許しを請うまで責め・・・

「あ・・・っ!!」

はっと目を見開くと、大きな瞳がにっこりと微笑みかけてきた。

「あ・・・ああ・・・」

まだ解放されたわけではなかったのだ。彼女が白く輝きながら彼の上に降りてくる。しっとりと濡れた襞に吸い込まれていく感触に、彼はもう一言も発することができなかった。咽喉から洩れるのはただ、空気の震えのようなあえぎだけ。

やっぱり・・・このまま連れて行くつもりなのか?天国へ・・・

しかし彼女は、彼の先端を包んだところで降りるのをやめた。そのままの深さで円く揺らしたり、抜きもせず入りもしない程度にわずかに肌をこすり合わせたりしている。彼は気が狂いそうだった。

彼女がこれを好きなのは知っている。何と言ってもこの味を彼女に覚えさせたのは彼なのだから。しかし今、この時、これをされるのは、拷問に近かった。とっさに彼女の腰を掴み、ぎゅっと指に力を込めた。明日の朝には痣になってしまうかもしれないが、どうしようもない。

「んん?なに?」

朦朧と官能に霞んだような声で彼女が呟く。

「は・・・やく・・・」

言えたかどうか自分でもよく分からなかったが、彼女が名残惜しげに溜息をついて前に進み始めたところをみると、一応通じたようだった。

「う・・・ん・・・ん・・・」

鼻にかかった甘いあえぎを洩らしながら、少しずつ、彼女が彼の周りに降りてくる。天に向かって鋭く突き立った剣を包む、温かく膨らんでたっぷりと潤った柔らかな鞘。彼はぎっちりと彼女の腰を掴んだまま、ただ二人がつながるその場所に神経を集中して―他のことをする余裕など既になかった―必死の思いで爆発の予兆を抑えつけた。

「・・・ん・・・はっ・・・はぁ・・・」

ゆっくりと、深く、深く進むにつれ、お互いが肌を押し付けあう力が強まり、どんどん結合がきつくなる。じりじりと緊張が焦げつき、限界が近づく。爆発寸前まで張り詰めた彼の周囲でぴくりぴくりという小さな痙攣を感じた途端、彼の腰は、完全に入りきるのを待たずに突き上がった。

「あ!ああ、ああぁ!」

1回、2回、3回。4回目には既に爆発していた。
 
 
 
 
 

「雪、やんだかな」
「・・・は?」

やっと息が落ち着き、そのままうとうとしかけていた彼は、言われたことを理解するのに少し時間がかかった。

「たぶん。夕方にはもう、やみかけてたからな」
「じゃあ、明日はまた雪遊びだね」

彼女が隣の部屋のドアを見やって微笑む。彼は小さく溜息をついた。

「そうだな。朝早く出て、早めに仕事を切り上げるようにするよ」
「出かけるの?その足で?」
「・・・ああ・・・」

片腕を瞼の上に乗せ、天井に向かって嘆息した。

確かに、雪が無ければまだしも、この状況で出歩くのはあまり賢いこととは言えない。

「蓄えはあるから。天気が良くない時とかのために」

腕を少し持ち上げて隣を見ると、柔らかな色の瞳が優しく微笑んでいた―天使らしい笑みで。彼は苦笑めいた表情で笑み返した。

「分かった。明日は家で仕事する」
「うん」
「よし。じゃあ、もう寝る」

体の向きを変え、腕の中に抱き寄せようとしたが、途中で腕を掴まれて押し止められた。

「あっ、ちょっと待って」

何だ?まさかもう一回とか?それなら今度は・・・

「ちょっと外に出てみていい?」
「はあ?!」

彼女と暮らしていれば大抵のことには驚かなくなるが、さすがにぎょっとした。

「何言ってる?冬の真夜中だぞ」
「ちょっと。ちょっとだけだから」

そう言いながら既に彼女は立ち上がりかけている。くいくいと毛布を引っ張られ、彼はつい反射的にそこから転がり降りた。彼女は彼が汚した毛布を―彼女のもあるかもしれないが―ためらいも無くさっとはおり、戸口に向かった。彼は慌てて床の毛皮を掴むと、片足をかばいながら後を追った。

「待て。それだけじゃ凍える」

ぎりぎり扉の前で捕まえ、取っ手に手を伸ばした彼女に毛布の上から、ばさ、と毛皮を被せた。彼女が振り向いてぱっと前を開き、彼を取り込んだ。

温かい。

二人して毛布―と毛皮―にくるまり、抱き合って立つ。もぞもぞと生地を引っ張って位置を調節しようとする彼女を手伝い、自分と彼女を足元まですっぽりと一つの世界に巻き込んだ。身長差があるので、彼の半分硬くなったままのものは、柔らかな腹部に当たっている。このまま彼女をかかえ上げて暖炉の前に戻って・・・と考えかけた時、彼女が布の端から手を出し、素早く体を反転させて扉を開け放った。途端に痛いほどの冷気が頬を打った。

「ううっ。寒―い」

毛布の縁に顔を半分埋めた彼女が、さらにもぐり込もうとするように首をすくめる。小柄な背中をしっかりと抱きよせ、華奢な手の先まできっちり布で包んだ。

「当たり前だ。さあ、もう気が済んだか?中に・・・」
「見て!きれい!」

真っ直ぐな視線の先を見上げ、息を呑んだ。凍てつく大気の向こう、灰色の雲が大きく口を開けた空に、まるで漆黒の氷の中で燃える炎のように無数の星が瞬いていた。

「・・・」

夜中に空を見上げたことは何度もあるが、これほど透明な輝きは初めてかもしれない。そしてこの静けさ。風も無く、一面を覆った雪にすべての音が吸い込まれてしまったように、何もかもがしんと動きを止めている。一瞬、時間の流れが止まったように感じて息が詰まったが、聞き慣れたちょっとハスキーな甘い声がその呪縛を破った。

「ねぇ、“クリスマスの星”ってどれかな?」

“クリスマスの星”。イエスが生まれた時、救い主―この世の希望―の到来を告げ、東方の三賢人を導いたという星。

「さあ・・・」

その星は言い伝えに過ぎない。もし本当に存在したのだとしても、輝いていたのは大昔のその時だけで、今はもう見えないか、あるいは存在していないかもしれない。

「どれだろう。分からない」

彼女は白い息を吐きながら、戸口から見える範囲の空をきょろきょろと見回した。柔らかな髪が彼の裸の胸をくすぐり、乳首が固く強張る。ふと彼女が動きを止め、顎と毛布の間から右人差し指の先だけを突き出した。

「きっとあれだよ」

薔薇色に染まった指の先には、南の空にひときわ明るくちろちろと揺れる星があった。真っ白な輝きはかすかに青みがかっているようにも見える。雪を被った大きな樹の先端近くで輝くそれは、まるで梢に灯された天国のろうそくのようだった。

「・・・きれいだな」
「うん」

うなずいて、少ししてから、彼女がふふっと忍び笑いを洩らした。

「なんだ?」
「んー、別に」

彼は首を前にかしげて彼女の顔を覗き込んだが、彼女はそ知らぬ顔で星を眺めている。

「なんなんだ、いったい」

腰でほっそりした背中を軽くつつくと彼女がくすぐったそうに身をよじり、笑い声を上げた。

「たいしたことじゃないよ。ただ、あの樹のおかげで今日は大騒ぎだったなぁ、って。でも、たまにはいいんじゃない?こういうのも」

それはさっきのことも言ってるのか?意味ありげな彼女の瞳の表情からすると、どうやらそうらしい。

「・・・まあな」

言った途端にかあっと顔が火照った。慌てて背けた頬の横に、軽やかな笑い声とともに柔らかな温もりが置かれた。はっとして目を戻すと、何よりも美しい二つの星が彼を見つめていた。

「私も。そう思う」

クリスマスの星がどれかは分からない。だが、その星が5年前の夜、どこに輝いていたかなら分かる。

不意に吹きつけた風でふわりと運ばれてきた小さな雪片が、彼女の跳ねた前髪にとまった。それをそっと吹き払い、細い巻き毛を鼻で掻き分けて、冷たい耳元に唇をつける。

「・・・いいか?」
「うん」

横を向いて彼女を中に引き入れ、腕を伸ばして扉を、できる限り音を立てないように、静かに閉める。
 
 
 

暖炉はまだ暖かな光をたたえていた。
 
 
 
 
 


 

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