国王救出に貢献した功績により、クリスは若年にして騎士領を継ぐことを認められた。王の部屋に、王子と、主だった家臣が集められた。パルシファルやヴォルフラムら、クリスの仲間達も特別に同席を許された。ジークフリード王は、足下にひざまずいたクリスの肩を剣で打ち、騎士に叙任した。

「これよりそなたは父に代わり、騎士としてこの国と王家に仕えることとなる。負う義務も責任も、これまでとは比べ物にならぬ。心せよ」

椅子にかけ、厳かに告げた国王に、クリスはひざまずいて頭を垂れたまま、神妙な面持ちで答えた。

「御意」

戦地でのことゆえ儀式は簡単に終了し、皆の後から部屋を出ようとしたクリスを王が呼び止めた。振り返ったクリスを王は手招きして近くに呼び寄せ、人の気配が遠離るのを待っておもむろに尋ねた。

「何故、儂があんな無謀な行動をしたかと、疑問に思っておるだろうな?」
「それは・・・」

クリスは言い淀んだが、王の澄んだ琥珀の目からは何も隠せそうになかった。

「・・・はい」
「そなたは正直で良い」

王は心地良さげにひとしきり笑った後、真っ直ぐクリスを見据えた。

「東方では『獅子の子を捕らえるためには、獅子の巣に入らねばならぬ』と言うそうだ」

怪訝そうに眉をひそめたクリスに、王は楽しげに顔をほころばせた。

「分かるか?価値あるものを得ようと思えば、敢えて危険も冒さねばならぬということだ。覚えておくが良い」
「はい」

クリスはまだ少し腑に落ちないという表情だったが、素直に頷いた。それを満足そうに見やって王は立ち上がった。

「ともあれ、今回は助かった。そなたには才能がある。将来が楽しみだ。ところで・・・」

まるで話のついでのように、王は実にさりげなく尋ねた。

「あの者の本当の名はなんという?」

クリスは一瞬たじろいだ。しかし、王の真剣な眼差しから、王が戯れに訊いたわけではなく、クリス達の事情を全て承知した上でそう尋ねたことを理解した。

「ファーキア。です」
「そうか」

抑えた声で、しかしはっきりと答えたクリスに、王は滅多に見せない慈悲深い表情を向けた。

「良い騎士であったな。最期まで主を守り抜いた、勇敢な騎士だ。彼の示した忠誠こそ、真の勇気であろう」

クリスは黙って目を伏せた。その肩に、王は力づけるように大きな手を載せた。
 
 

それから数日後、老いた忠実な騎士は、生涯を捧げた主に見守られて静かに息を引き取り、異国の地に葬られた。


 

 続き Fortsetzung

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