Hina-Matsuri ヒナマツリ



 

「ねぇふぁきあ、日本て国知ってる?」
「誰にものを訊いてる」
「ああ、はい、スミマセン」
「で?何が言いたい?」
「うん、あのね、先週、そこから留学生が来てね。いろいろ向こうのこととか話してくれたの。ずいぶん遠くって、それにずいぶんいろいろ違うんだねー」
「お前のことだから、うるさくつきまとったんじゃないか?バレエの勉強しに来てるんだから、邪魔するなよ」
「してないよ。居残り練習するって言ってたのを、アイスクリーム食べに誘っちゃったけど・・・」
「バカ。そういう時は一緒に残って練習しろ」
「それでね、3月3日は・・・」
「人の話を聞け!」
「はいはい。それでね。日本では3月3日はHina-Matsuriって言って、赤い絨毯を敷いた階段に、桃の花と、小さなお人形を飾るんだって。女の子のためのお祭りなんだって!」
「へぇ、そうか」
「もう、ふぁきあってば!ただのお人形じゃないんだよ!王子様と王女様なの。あれ、王様と王妃様だったかな?」
「力入ってる割には大雑把だな。いつものことだが・・・」
「ねぇ、あたしもやりたい!」
「はあ?何を?」
「Hina-Matsuri!カロンさん、お人形作ってくれないかなぁ?」
「そりゃ、頼めば作ってくれるだろうが・・・」
「じゃあ、王子様と王女様のモデルはみゅうととるうちゃんでね!あとね、侍女も3人要るの。それはあたしとぴけとりりえかな?それから・・・」
「まだあるのか?」
「うん、騎士が2人。ふぁきあと幽霊騎士でいいね」
「よくない!」
「それとー」
「おいあひる、人の話を・・・」
「うんうん。楽隊は5人だから。1人はあおとあでしょ?それからもちろんエデルさんと、うずらちゃんと・・・」
「実物を呼んで来た方が早いな」
「えっ!そんなことできるの?」
「そういう夢を見るお話を書いてやる」
「えー、夢?」
「夢だってそうそう書いたとおりになるとは限らないが、とりあえずそれで満足しろ。カロンに頼むにしても、お前が言うもの全部作ってたら1年がかりだ」
「わかった。じゃ、思いっきり素敵な夢にしてね?起きてから思い出して、幸せな気分になれるようなのだよ?」
「ああ、なるべくな」
「うんとロマンチックなのがいいな!楽隊の演奏で、王子様と王女様が踊って・・・」
「『くるみ割り人形』か何かの二番煎じみたいだが・・・それがお前の望みなら」
「あたしも踊りたい!」
「王子と?」
「騎士と!」
「幽霊騎士と?」
「もう!ふぁきあ!」
「俺となら、別に夢でなくても、いつだって踊れるだろ」
「いつでも、ってわけにはいかないじゃない。衣装だって、ふぁきあと踊れる時は練習着だし」
「衣装が重要なのか?・・・まさか俺にも・・・」
「いまさら何言ってるの?舞台でいっつも着てるでしょ」
「いや、それは舞台だから」
「舞台だと思えばいいじゃない。『眠りの森の美女』のがいいかな?一度見たけど、わりと似合ってたと言えないこともないような気もしないでもないし」
「何だそれは。しかもあれは騎士の衣装じゃないだろ」
「まあ、細かいことは気にしないで。あ、でも、クレールの湖に行った時着てた黒い衣装はやめてね?」
「何でだ?」
「イヤな夢を思い出すから」
「イヤな夢?どんな夢だ?」
「え、どんなって・・・うわーん、ふぁきあが訊くから思い出しちゃったよー!ふぁきあのバカー!死んじゃダメー!!」
「叩くな、あひる!泣くなって!いったい、どんな夢見たんだ・・・」
「踊り終わっても手を離さないって言って!死なないって言って!」
「分かった分かった。いや、よく分からないが、とにかく俺が悪かった。だから泣きやめ」
「死なないね?代わりに『愛してる』のマイムをしてくれる?」
「は?今?」
「違うよ。踊り終わったあと」
「ええと・・・夢の中で、ってことか?」
「うう・・・」
「分かった!何でもお前の言うとおりにする!ちゃんと派手な衣装も着るし、『愛してる』のマイムもする!」
「ありがとう、ふぁきあ!大好き!」
「お前の夢だからな。お前の好きなようにするさ」
「でも、自分の思い通りの夢ってなかなか見れないし。ふぁきあが協力してくれると心強いよ」
「そんなたいしたことじゃないだろ・・・」
「いつかは『本当』に、素敵な衣装でふぁきあと踊りたいな。舞台の上で、ね」
「そう思ってるなら、しっかり練習しろよ」
 
 
 

 

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”大人向け部分”につきましては、このページ内のどこかに入り口が在ります (*^^*)



Hina-Matsuriつづき