Glanz des Gold, Strahl des Silber 8



 
優しく触れるつもりだった。少なくとも最初は。そうっと、大切に、愛しむつもりだった。何といっても、二人が結ばれるのは、これが初めてなのだから。・・・心からレーネを愛している、何よりもかけがえなく思っている、この想いを、この行為を通して、彼女に伝えたい。絶対に、荒々しいマネをして驚かせたり、怯えさせたりしてはならない・・・
それなのにいきなり、冬眠から覚めたばかりの熊よろしく、獰猛にむしゃぶりついてしまった。

情状酌量の余地は有る・・・と、思う。なにしろ出逢ってからずっと、抱き締めて愛し尽くしたいのを我慢してきたのだから。問題は、それがたかだか3週間ほどの我慢ではなく、何年も、あるいは何百年も―そんなことはありえないが―であったかのような荒っぽさだったということだ。

唇に重なった温もりは、夢の記憶通りにふんわりと甘く、触れた途端に我を忘れた。無垢な柔らかさのそれを乱暴に犯すように、己の口を押し付けて蹂躙し、舌で小さな歯列をこじ開ける。可愛らしい口に太い舌を突き入れ、容赦無く責め立てたせいで、レーネはあっという間に息が上がってしまったらしかった。ようやく一瞬だけ、自分の息継ぎのために唇を離してみてやっと、半ば開いた花のような唇が―激しく擦られたせいで充血して腫れ上がり、唾液まみれでつやめいている―苦しげに切れ切れの呼吸を漏らしているのに気づいた。波打つなめらかな黒髪に潜らせた左手には、ぐったりと預けられた頭の重みがかかっている。

落ち着け!何を焦っている?

焦る必要など無いはずだ。こいつはもう、間違いなく、俺のものなのだから。これからも、ずっと。だが、彼女が明らかに彼の欲望を受け止め切れてないと気づいてもなお、体の中の飢えた獣は止まらなかった。恐れにも似た本能が、衝動を駆り立てる。仰向けられた美しい顔は薔薇色に火照り、あの、男を虜にする深い蒼の瞳は閉じられてしまっていたが、それすらも理不尽な切迫感に拍車をかけた。

甘い唇からかすかなコーヒーの苦味を完全に舐め取ると、頬の怪我をよけて、うなじから、高雅な花の香りのする―香水なのか、それともシャンプーなのか―闇色のシルクの髪に鼻を埋める。うっすら色づいた耳を口に捕らえると、歯と舌で、音を立てて弄った。悶える体を武骨な手が押さえつけ、最後の砦のように肌を覆っている邪魔な薄布を引き下ろして、無垢な肌を剥き出そうとする。

細い両腕がしっかりと彼の首に巻きついているのでなければ、レイプしているのにも等しいところだ。手を止めるのは無理でも、何かロマンチックな、優しい言葉でもかけてやれればいいのだが、もともと口が達者ではない上に、何かを言おうと彼女の顔に目をやった途端、再び唇が吸い寄せられてしまう。愛撫していると言うより、手当たり次第に不器用に体を撫で回し、息を切らせてもつれ合っていると言った方が近い。彼女はその素晴らしい胸を不規則にあえがせ、しなやかな体を頼りなくふらつかせながら―彼ががっちり抱き止めているのでなければ、崩れ落ちてしまっていただろう―華奢な腕で、一瞬たりとも離れたくないと言わんばかりに、彼の頭を抱え込もうとする。そんな彼女が愛しくてたまらない。

レーネの頬や首の痛々しい様子はイヤでも目に入ってきたから、いたわる気持ちになってしかるべきだった。だが、もしかしたら彼女を失っていたかもしれない、と思っただけで、激しい感情に煽られ、何も見えなくなる。身勝手な激情を彼女にぶつけるべきではないということも、こんなやり方ではきっと彼女の柔肌にアザを残してしまうだろうということも、頭の片隅では認識していたが、どうしようもない。とにかく欲しくて、欲しくて・・・今すぐ一つになれなければ、息が止まってしまいそうな気がする。

どこかでビリビリッという音が聞こえて、たぶん、彼女の下着を破いてしまった―きっとこれも高価なものだろう―と分かったが、手を止めることはおろか、気にかけることすらしなかった。曝け出された素肌の手触りはあまりにも感動的で、他のことなど何一つ考えられない。そのしっとりした滑らかさ、しなやかな弾力、彼の手にしっくりと馴染み、吸い付く感覚は、彼がずっと探し求め、渇望し続けてきた、まさにそのものだった。

ああ、これだ・・・!

有頂天になり、歓喜して己の肌を擦りつけようとして、ふと自分がまだ服を着込んでいることに気づき、苛立ちで、つい舌打ちした。さっと見開かれた瞳が、物問いたげに彼を見上げる。だがそれに答えてやることもせず、いきなりレーネの両脇を掴んで体を引き離した。レーネは落ちるようにすとんと、後ろのソファに座り込んだ。

「ザックス、ど・・・」

慌てて立ち上がろうとするレーネに乗り掛かり、またひとしきり唇を吸い上げる。再び息を切らしたレーネから素早く後ずさり、ソファの脇にひざまずいたまま、上着を体から引っ剥がす。右腕を抜こうとして激痛が走ったが、構わず引き抜き、適当に放り投げた。

「ザックス、手伝うから、無理しないで・・・」

豊かな胸を大きくはずませ、しどけなく髪を乱したレーネが、真っ赤なソファから身を起こす。紐だけのサンダルと銀の指輪以外、何も身につけず、生まれたままの姿で。オパール色の透明な肌を惜しげもなく彼の前に晒し、男をくらくらさせる魅惑的な肉体を彼の無遠慮な視線から隠そうともせず。そのしなやかな両腕を、空に向う枝のように、彼に向って優しく差し伸べて。

「何て、きれいなんだ・・・」

思わず声にした途端、レーネが電流に打たれたようにびくりと目を見張った。そして―

花が開くように、微笑んだ。

心臓が鷲掴みにされ、息が止まった。頭の中で瞬間的に何かが閃いた気がしたが、またしても何かを掴み取る前に消えてしまった。どのくらいぼうっとしていたのか、たぶんそんなに長い時間ではないと思うが、ひんやりした手がはだけたシャツの胸元に触れて、はっと我に返った。

「え、あ、レー・・・」
「いいから、やらせて」

裸のレーネが、ボタンを一つずつ、上から順番に外してくれる。嬉しくてゾクゾクするが・・・待っていられない。

「あっ、もう・・・」

レーネの手を押しのけるようにして、残りのボタンを大急ぎで外した。自分の太い指が、急に不器用で遅鈍になったように感じられてもどかしい。それでも、人生最速記録でバックルを外し、ジッパーを開いてシャツを引っ張り出した。そして力任せに布を掴んで脱ぎ捨てようとしたところで、ごわついた生地が腕の包帯に引っ掛かり、死ぬほど痛い思いをした。レーネが、しようのない人ね、というように溜息をつきながら、たわんだ布をきちんと伸ばし、そっとめくって、毛むくじゃらのごつい腕を解放してくれる。裏返ったシャツを畳みなおそうとしているレーネの手からそれを奪い取り、ソファの背の向こうに放り投げた。

「ザックス・・・」

何かを言いかけていたレーネをもう一度腕の中に抱き寄せ、すべすべの柔らかな肌に、燃える体を押し付ける。

「ああ、いい、レーネ・・・」
「ザックス、あのね・・・」

盛り上がった肩の筋肉をほっそりした指で掴み、か細い声を出したレーネの息が胸毛をそよがせる。懐かしいとすら感じられるほど体に馴染む刺激に、脊髄から体の芯に戦慄が走る。腰が勝手に動いてレーネを突き上げ・・・

「クソっ!」

ビクっとしたレーネを再び放して立ち上がった。腰に手をやり、前が開いた状態で引っかかっているズボンを、下着もろとも一気に引き下ろす。はじけ出た彼のものを見て、レーネが固まった。そりゃそうだろう。自分でも、こんな膨れ上がってるのは初めて見た。しかも興奮で体中の血が集まってるせいか、それともずっとズボンの中で擦られていたせいか―たぶん両方だろう―ソレは不気味な赤黒い色をして、浮き上がった太い血管が脈打つのさえ分かりそうだ。

「ああ、ええと、大丈夫だ、怖くねぇから・・・」

くそ、もうちょっとマシなことが言えねぇのか?!それじゃまるで、入れることしか考えてねぇみてぇだろ!

もっとも、実際、それに近い状態ではあったが。熱い槍は冷たい外気に触れても全く醒めることはなく、枷から解き放たれた今は、目標めがけてひたすら突進する以外考えられない。熱く濡れた中心に真っ直ぐに突き刺さり、深く、深く貫いて、恍惚の世界に全てを埋め・・・

レーネが赤いソファの上でごくりと咽喉を鳴らし、警戒するように身じろぎした。はっとして、とりあえず彼女を怖気づかせないよう、ソレを彼女の視界から隠そうとしゃがみかけた途端、控えめな眼差しが彼を見上げ、艶やかに光る唇の合わせ目から小さな舌がちろりと現れた。

「・・・さわってみて、いい?」


 

 続き Fortsetzung

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