Glanz des Gold, Strahl des Silber 12



 
苦しそうだ。当然だろう。こんな華奢な体で、俺のデカイ図体にのしかかられているんだから。

言い訳させてもらえるなら、彼女をいたわろうという気持ちはあった。自制しようと努力もしたが、山火事を手桶の水で消そうとするような―あるいは洪水をちっぽけなレンガで防ごうとするようなもので、彼女を求める気持ちを制御しようなどというのは、どだい無理な話だった。

まるで、気が遠くなるほど果てしない時間ずっと堰き止められていたものが一気に溢れ出したように、体の底からこみ上げる熱情が、なすすべも無く彼女に向ってほとばしる。初めての夜としては到底ありうべからざる放埓さと、激しさの、交わり。縄張り意識丸出しの獣さながら、ごつく粗野な彼のモノが可憐な秘所を蹂躙するさまを見せつけ、今にも気を失いそうな彼女を、飢えたように貪る。宇宙の真理、存在の根源からの要求のまま、剥き出しの欲望を、柔らかく温かな体に打ちつける。

夢の中ではもっと色々とワザを使って彼女を悦ばせていたはずだった。なのに現実では、ただひたすら突いて突いて突きまくるだけ。技巧も何もあったものじゃない。もっと奥まで入りたい、深く、強く、結ばれたい・・・二度と離れ離れにならずにすむよう・・・ただその想いだけに衝き動かされていた。客観的に評するなら、自分勝手に快楽に溺れ、白く優しい肉体を使って自慰をしているようなものだ。だが、そうとは分かってても、とにかく1度―1度で済むものなら―この、思考を焼き尽くす灼熱の嵐を解放してやらないことには、どうしようもない。

・・・次の時に・・・

こいつは俺のものなんだから、挽回の機会は、これからいくらでもある。いつか、もうちょっと落ち着いて、ゆっくり抱けるようになったら・・・たぶん、いつか・・・50年後くらいには・・・

たっぷりと熱い果汁で潤った柔らかな襞が、ぎゅっと彼を包み込み、しぼり上げる。だめだ、もう我慢できねぇ。

既に過剰な負担をかけてしまっている彼女に、一応、断ってから―と思うが、確信は無い―彼に押されてずり上がる体をぐいと引っ張り、両脚を下から掬うようにして抱え上げて、肩に乗せる。彼女の尻が脚の付け根にぴったりとつき、深い所まで引き込まれる感覚があって、脳髄を快感が走った。しなやかな体がびくんと硬直したのを感じたが、そのままふんわりした尻を掴んで、再び激しく突き始めた。

「レーネ・・・レーネ・・・レー・・・」
「ザッ・・・クス・・・!」

天空に漂う、清らかな楽の音。夢の中、夜明け前の空から響いてきた・・・

理性も正気も、とっくに失せていた。彼に貫かれ、乳房を揺らしてもがく彼女を、逃がすものかとばかりに組み敷き、自分を突き立てている。ふっくらした唇を開いて苦しげに喘ぎ、漆黒の髪を乱して不規則に頭を振りながら身をくねらせて悶える姿にますます煽られ、原始的な悦びすら感じた。彼の骨も、筋肉も、血液の一滴まで、完全に野蛮な本能に支配され、夢中で彼女を犯していた。しばしば他人から熊みたいだと言われ、自分でもそう思うこともあったが、こんなふうに自分の『獣性』を感じたことはなかった。

・・・俺のもの。

彼女が苦しそうだと思うと、胸が痛んで、助けてやりたいと思うのに、彼の体は彼女を放そうとしない。彼女が受け止めてくれるということに、一片の疑いも抱いていないかのように。暴走する欲望と快感で朦朧とした頭の中で、様々なイメージが次々に現れては消える。鮮明なような、懐かしいような、ほろ苦く、甘い、想いの数々。曖昧模糊としてとらえどころの無い、きらめく無数の星屑に投影されたような雑多な断片。しかしその中で一つだけ強く、はっきりと認識できるものがあった。

ここだ。ここが俺の居るべき場所・・・ずっと探していた、俺が帰りたかった場所・・・

今まさに、崩れ落ちようとするガケの突端に彼はいた。すぐそこに限界が迫っている。とっさに、二人の結びつきをまさぐり、秘珠に触れる。直後に夜空に閃光が走り、星の一つが爆発した。めくるめくエクスタシーの中に投げ出され、彼は咽喉の底から咆哮を上げながら、真っ逆さまに落下していった。・・・引き裂かれていた魂のもう一方が待つ、『故郷』の家へと。
 
 
 

伐り倒された樹のように彼女にもたれかかり、くらくらする頭を押し付けて荒々しく息をつきながらも、軋む腕で体を支え、彼女を押し潰さないように注意はしていた。だが、覆いかぶさる巨体の下で、彼女は息も絶え絶えという様子で横たわっている。早く彼女からどいて、楽に息ができるようにしてやらねぇと・・・とんでもねぇ勢いで暴発した後も、まだ鋼のように硬く強張っているモノを彼女から抜いて・・・

「ちくしょう、マズった!!」

飛び起きたとたんに失言に気づいたが、遅かった。美しい顔がさっと強張り、紅潮していた頬からすうっと血の気が引く。見開かれた蒼銀の瞳の中で暗い影が揺れた。

「違う、そうじゃねぇ、俺が言いたかったのは・・・」

くそっ、今度こそは―今度こそ?―終わったらまず最初に、『愛してる』って言うはずだったのに・・・

「つまり、その・・・忘れた、ってことだ・・・アレを・・・」
「アレ?」
「ああ、ええと、その・・・装着、するのを」

滑らかな頬骨の辺りがぱっと赤らみ、目が曖昧に泳いだ。

「ああ・・・アレね・・・」

とりあえず理解してもらえたようでほっとしたが、安心してる場合じゃねぇ。

「悪い、俺、夢中になっちまって、頭ん中が真っ白で、何にも考えられなかったもんで・・・」

まったく、出会ったその日に買いに行って、いつでも使えるようにほとんど肌身離さず持ってたっていうのに、肝心な時に出すのを忘れるとは、とんだ間抜けだ・・・おろおろと身を引きかけると、ほっそりした手が毛むくじゃらの腕にそっと添えられた。

「気にしないで。私も忘れてたし」
「でもお前・・・お前の方で予め対処してる、ってことはないだろ?」

上目遣いに窺うと、彼女の表情がかすかに強張った。

「いいえ・・・してないわ」

がっくりと肩が落ちた。

「すまねぇ・・・」
「私はいいの、ほんとに。・・・でもあなたは困るわよね・・・」
「いや、俺は・・・」

はた、と重要なことを聞いたのに気がついた。

「お前、いいのか?もし、その・・・できても?」
「私は・・・ええと・・・」

ほんのり染まった彼女の顔をじいっと見つめる。喜びがじわじわと込み上げてきた。

「・・・むしろ嬉しいけど」
「いいのか!そうか!!」

またたく間に体中に希望の輝きが広がった。わくわくして、じっとしていられない。

「じゃあ、急がなくちゃな」
「急ぐ?何を?」
「結婚。1ヶ月以内に結婚しよう」
「え、ど、ど、どうして?」
「それくらいが限度だろ」

子供ができる―かもしれない―ってことは口実だと、自分でも分かってる。でもまあ、ちょうどいい口実だ。これまで、もう充分、永遠のように思える時間を待ち続けた。もう一日だって待ちたくない。

「イヤか?」
「そんな、イヤだなんて・・・」
「よし決まりだ!となると、まずは・・・」

現実的なことを考えると、少し興奮が引いた。

「そうだな、まずはお前の両親に挨拶して・・・」

たぶんあれこれ難癖つけられるだろうが、それくらいの障壁、越えてみせる。なんたってこいつは、俺の一生の望みなんだからな。そうだ、それに、いざとなれば、子供ができる―かもしれない―ってことも使える。

「それから、告知手続きと、ああ、俺の家族にも会ってくれよな。きっと皆、驚いて、大喜びするぞ」
「・・・そうだといいけど」
「間違いない」

今度こそ―今度こそ、幸せになれる。

確信をこめてきつく抱きしめると、レーネが柔らかな体をそっと沿わせてきた。夢中で貪りたいのをこらえて、誓いのように厳かにゆっくりと口づけると、優しく応えるような口づけが返ってくる。

ああ、帰ってきた。やっと。

いきなりレーネを抱いて立ち上がろうとして、足首にからまった布の塊につまづき―つまり、結局、全部脱ぎきるまで待てなかったってことだ―思い切りつんのめった。レーネが慌てて彼を支えようとしてきたが、今度は彼女を巻き添えにする前に体勢を立て直すことができた。

「どっちだ?」
「右」

どこがとも訊かず、レーネが答えて体を離す。一瞬、下腹部を押さえて綺麗な顔をしかめたものの、すぐにあの、彼の心臓を爆発寸前にさせる愛らしい微笑を浮かべて、すらりとした手を彼に差し伸べた。愛欲の女神のような裸身に手を引かれ、導かれるままにいくつかのドアを通り抜けて進んで行く。辿り着いた目的の場所は、心地良くこじんまりとした部屋だった―と思うが、実際には、中央にある立派な真鍮のベッド以外ほとんど目に入っていなかった。

「よし、これなら・・・」
「ゆっくり寝られるわ」

言葉を継ぐように答えたレーネに、にやりと笑い返した。

「試してみるか?」

間髪をいれず、すらりとした体を自分の前に引き寄せ、ふんわりしたヒップに、やる気十分の股間を押し付ける。肩の上からかがんで横顔を覗き込むと、彼女は濃く長い睫をしばたたかせ、無邪気に目を丸くして見返してきた。ほころびかけた唇が言葉を紡ぐ前に、自分の唇で覆い、その続きは行動で説明した。
 
 
 
 
 

二度目のシャワーを浴びた後―部屋にシャワーが付いてると、とても便利だ―ザックスは滑らかなシーツに潜り込みながら、ぐったりと横たわるレーネの耳元に告げた。

「もう寝ろ」

レーネは頭上に両腕を投げ出して目を瞑ったまま、聞こえるか聞こえないかの声で答えた。

「・・・うん」

そのまま眠り込むかと思ったが、ふいに彼女は何かを思い出したようにごそごそと起き上がった。肘をついて上半身を浮かせ、ベッドの頭板の方へ腕を伸ばして、何か探している。目の前で白い乳房が揺れる。

「・・・何をしてる?」

不本意ながら声がかすれた。初夜としては、もう、充分満足したはずだ。もう寝ろと言った手前、股間の怒張は無視する他ない。だが彼女はそんな彼の葛藤も知らぬ気に、しなやかな体をひねり、激しい交合で乱れたベッドの上をあちこち手探りしている。

「・・・あった」

眠そうな声でそう一言呟いたかと思うと、ふっくらした大きな羽根枕を引き寄せて、彼女の方へ伸ばした彼の左腕にぴたりとくっつけ、その上にぱたりと頭を乗せた。彼の腕は彼女の首の下、ちょうど頭と肩の間に納まっている。

「・・・レーネ?」

確かに、こうすれば、腕への負担は少なくしつつ、心地よい彼女の重みを感じることができる。だがこいつは、男の腕枕で眠ったことなどないはず。なぜこんなことを知ってるんだ?

「なあ、お前・・・」

しばし間があって、レーネが、やっとという様子でわずかに頭を動かし、眠そうなかすれ声で答えた。

「・・・んん?何?」

白い瞼と長い睫に九割方覆われた瞳をほんの少し見つめた後、彼は言った。

「・・・いや。おやすみ」
「ん・・・」

レーネは数秒と経たないうちに、軽い寝息を立て始めた。

大切なのは、今こいつが俺の腕の中にいて、俺たちはやっと一つになれた―そしてこれからもずっと一つだってことだ。それ以外のことはどうでもいい。果てしない孤独な放浪の果てにやっと帰り着いた、この奇跡に感謝しよう。そして、ここからまた、始めるんだ。
 
 
 

俺はお前の隣を歩いていこう。これからも、ずっと。


 

 続き Fortsetzung

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