「僕がもともとはノルドの人間でないことは知ってるね?僕は・・・オストラントの生まれだ。僕の実の両親はオストラントの王と王妃で、僕は一人息子だった。僕が5歳の時、謀反が起こり、両親は殺された。僕もその時に一緒に死んだことになっているが、助けてくれる人があって、僕一人だけが逃された。僕は父の騎士の一人・・・君達が僕の父と思っている人だが・・・彼と共にあちこち放浪し、ジークフリード王の温情で、やっとノルドに落ち着いた」

予想を遥かに凌ぐ衝撃に、リンデは呆然と目を見開いたまま固まり、声も出せなかった。クリスが異国から来たらしいことは、もちろん、兄から聞いていた。でも・・・オストラント・・・の王家?あの?

オストラントの謀反の話は聞いたことがあった。子供の頃、教育のために預けられていた女子修道院―と言っても、あまりの落ち着きの無さに3年程で家に戻されてしまったのだが―で、一緒だった友達が、自分は失われたオストラント王家の遠い血縁だと自慢していた。その王家は大昔に存在した広大な帝国の貴族の末裔で、ノルドやシディニアの王家とは比べ物にならないほど由緒ある高貴な血筋だと彼女は言っていた。・・・クリスは、その王家の王子。たった一人の、正統な・・・

でも、そう言われて思い返すと、妙に納得がいく。クリスの強い責任感、いつも一人で全てを背負い込み、守ろうとする態度は、まさにその立場の人のものだった。それにクリスは、雇われ騎士の家柄の出にしては、奇妙なほど富にも名誉にも執着が無かった。それは、クリスがそもそもそういったものを求める必要が無い生まれだったことと無関係ではないだろう。あるいは無意識のうちにも、そういったものを避けていたのかもしれない。目立った出世をしたり、名声を得て評判が広まることは、あまり望ましいことではなかっただろうから。・・・けれどそうやって辛うじて守ってきた貴族の名さえ、結局クリスは捨ててしまった。リンデのために。今はただの片田舎の猟師で・・・リンデの夫で、リンデの子供の父親で・・・

その瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。クリスが言わんとしていることをだしぬけに理解し、リンデは愕然として青ざめた。

「つまりこの子も・・・王子ってこと?」
「そう言う者もいるだろう」

クリスは彼女の反応を注意深く窺いながら、冷静に答えた。

「オストラントは謀反の後、しばらく政情不安だったが、今はだいぶ鎮静化している。けれど僕が生きていると知れれば、僕を消し去ろうとする者は必ずいるだろうし、逆に僕を利用しようとする者もいるだろう。この子も同じだ」

リンデはとっさにクリスの手から自分の手を引き抜き、生まれたばかりの小さな命を庇うように手を伸ばしてベッドから身を乗り出し―バランスを崩して落ちかけた。しかしリンデが赤子の籠に落下する直前、クリスが素早く彼女の胸の前に片腕を廻して抱き止めた。クリスはリンデの体を抱き起こして両腕で包み込み、がくがくと震える背中を撫でてなだめた。

「不安にさせてすまない、リンデ・・・だが、君には知っておいてほしかったし、知っておくべきだと思った。・・・君は、この子の母親だから」

鋭く息を吸う音がして、リンデの震えが止まった。二人の体の間で固い拳に握り締められた小さな手だけが、小刻みに揺れ続けていた。クリスはか細い背中をふんわりと抱いたまま、一本のお下げに編まれた長い髪を手繰り寄せ、汗の匂いのするそれに口づけた。

「大丈夫だ。僕がいる限り、決してそんなことはさせない。それに今のところ、それほど危険が差し迫っているわけではないと僕は考えてる。オストラントは遠いし、あれからもう15年以上も経つ。今日まで何事もなかったことを考えれば、このままずっと誰にも知られず、無事に過ごせる可能性も高い」

クリスの肩口でリンデが弱々しく息を吐いた。クリスは力づけるようにぎゅっと抱き締めてから体を離し、血の気の引いた小さな頬にほつれて落ちた後れ毛を、指先でそっと耳にかけた。

「・・・が、分かってもらえると思うが、それでも知られる惧れが皆無とは言えない・・・落ち延びた時、僕は幼かったから、僕が逃げた事を誰が知っていたかは分からない。ファーキア・・・僕を連れて逃げた騎士も教えてはくれなかった。たぶん彼にも分からなかったのだろう。全てが混乱の中、あっという間の出来事だったから・・・」

クリスの眉間に深く皺が刻まれ、苦しげな息が洩れるのを、リンデは潤んだ大きな瞳でじっと見ていた。

「何人かは知っている者もいただろうが、そのうちの何人が生き残っているのか、あるいはそれを誰かに話したか、それも分からない」

リンデがすっと目を伏せ、長い睫毛に溜まった雫がこまかく震えた。クリスはリンデの頭を再び胸元に引き寄せ、乱れた柔らかい髪の上に何回かキスをして、優しく囁いた。

「心配するな。何があろうと、絶対に君とこの子に手出しはさせない。僕を信じてくれ」
 
 
 

クリスの広い胸の温かさに、リンデは少し落ち着きを取り戻した。ふっと小さく溜息をつくと、ゆっくりと顔を起こし、まばたきしてクリスを見上げた。消え入りそうな小声ではあったが、声が出た。

「・・・他に知ってる人はいるの?つまり、他の国・・・ノルドでは?」

クリスがリンデを見つめたまま静かに頭を横に振った。

「放浪していた間、僕の素性に気づいた者は誰もいなかったと思う。が、ジークフリード陛下は知っておられた。僕を一目見て察せられたらしい。陛下は僕の父に会ったことがあると仰っていた。あと、パルシファルにも・・・事情があって打ち明けた」
「お兄様に?」

リンデはわずかに目を見張った。

「ああ。彼は決して他人には洩らさないだろう。だから、ノルドでこのことを知っているのは、今は君とパルシファルの二人だけだ」

どういう事情で兄に打ち明けたのかクリスは話してくれなかったが、リンデはあえて聞き質そうとは思わなかった。ただクリスの信頼にじわりと胸が熱くなるのを覚えた。そっと手を開いて力強い硬い胸板にあて、視界の滲む目でクリスを見つめた。

「ありがとうクリス・・・私を信用してくれて嬉しい。お兄様のことも・・・」

クリスは苦笑を浮かべて首を振った。

「本当は君には告げるつもりはなかった。僕は全てを捨てても君を守ると決めた。君に余計な心配を負わせて、こんなふうに怖がらせたくなかった。自分ですら忘れかけているような過去を、わざわざ知らせる必要はないと思っていたんだ」

抗議の声を上げかけたリンデの唇に人差し指と中指を当てて制し、クリスは言葉を続けた。

「今日、ザックスに『跡継ぎができた』と言われるまでは。僕のことはともかく、この子は君の子でもある。君には、この子が生まれながらに負ったものについて、知る権利がある。・・・もっと早く知らせるべきだった」

リンデは俯き、クリスの言葉を胸の中で反芻した。その時リンデはふとあることに気づき、クリスの顔を窺うように仰ぎ見た。

「もしかして・・・それで困ってたの?この子ができた時・・・」
「困ってない。戸惑っただけだ」

クリスは即座に切り返したが、口調は柔らかく、唇にはわずかに笑みさえ浮かんでいた。

「それと答えはNeinだ。そのことが理由じゃない」

そう言ったクリスの表情が苦々しさを帯びた。

「正直に白状すると、僕はザックスに指摘されるまで、この子にとってそれが問題になるとは認識してなかった。オストラントのことは、僕にとってはとっくに捨て去った過去で、こんな事がなければ思い出すこともなかっただろう。僕は両親の顔すら、ほとんど覚えてはいないんだ」

はっと悲しそうに歪んだリンデの頬を指先で撫で、クリスは微笑した。

「憐れむ必要はない。実際のところ、そのことをそれほど辛いと思ったことはないんだ。僕にはいつも、僕を愛してくれた人達がいたから」

意味ありげな眼差しで見つめられ、リンデはかすかに頬を染めて濡れた睫毛を伏せた。クリスは愛しくて堪らないという表情で、軽く曲げた指の背をもう一度薄紅のなめらかな頬に走らせてから、そっと手を下ろしてリンデの背に戻し、表情を引き締めた。

「それに、もし、もっと状況が切迫していたとしても、そんな理由でこの子をあきらめたりはしなかったよ。君達は僕の全て・・・僕の希望そのものだ。どれほどの困難があろうとも、絶対に守ってみせる。君達さえ幸せなら、他に何も望むことは無い」
 
 
 

リンデが唐突に顔を上げ、大きく目を見開いてクリスを見つめた。と思う間も無く、泣きやんでいたはずの綺麗な瞳に見る間に涙が盛り上がり、ぽろぽろとこぼれ落ちた。クリスは眉をひそめ、リンデを抱く腕に力を込めた。

「怖がらなくていい・・・必ず僕が守る。君もこの子も・・・僕の命に代えても」

しかしリンデは何も答えず、突然クリスの腕を掴んで逃れるように上体をひねり、赤ん坊の方へと身を乗り出した。まじろぎもせずに我が子を見つめるリンデの頬を、幾筋もの雫が絶えることなく流れては滴り、毛皮の上掛けの上に透明な真珠の粒のように転がった。クリスの胸が引き裂かれるように激しく疼いた。クリスを厭うように捩られたリンデの背を必死に掻き抱き、クリスは訴えた。

「リンデ・・・もし僕が黙っていたことで、君が騙されたように感じたのだとしたら・・・・・・悪かった。だが僕は、君達を何よりも大切に思っているんだ。頼む、どうか僕を信じてほしい」

けれどもリンデは泣きながら首を振るばかりで、切れ切れの嗚咽は止まらなかった。クリスは苦渋と切望の入り混じった表情で辛そうにリンデの横顔を見つめていたが、ややあって迷いを振り切るように口を開いた。

「もし君がどうしても僕を信用できないと言うなら・・・」

クリスの両手が、否定的な言葉とは裏腹に、リンデの身体をきつく掴んだ―決して離すまいとするかのように。底冷えのする闇に、一層低く沈んだ声が、硬く響いた。

「君がその方が安心だと思うなら、パルシファルに・・・」

リンデは首がちぎれるのではないかと思うほど激しく頭を振った。クリスはたまらずリンデの身体を引き寄せ、涙を拭おうと手を伸ばしたが、頬に触れる直前でその手を掴まれた。

「リンデ・・・?」

悲痛な眼差しで彼女を見つめるクリスを、リンデは濡れた瞳でまっすぐ見つめ返した。

「クリス。やっぱりこの子の名前はふぁきあにしよう」

その突拍子もない言葉は、驚くほど迷いの無いはっきりとした口調で告げられ、クリスは一瞬何を聞いたか理解できずに、まじまじとリンデを見つめた。リンデの澄んだ眼差しから、彼女が本気であることはすぐに見て取れたが、クリスはやはり訳が分からず、ニ、三度まばたきして口ごもった。

「は?・・・だが・・・」

阻まれた手を掴んでいる小さな手にぎゅっと力が込められた。

「ねぇクリス、今なら分かるでしょ?クリスのお父様とお母様がどんな想いでクリスを送り出したか」

はっと息を呑んでクリスは口を噤んだ。

「お父様とお母様が逃げなかったのは誇りのためだけじゃないよ。クリスを確実に逃げ延びさせるため・・・そのために最後まで踏みとどまって、そして」

声の震えを抑えるように、リンデはそこで大きく息を吸い込んだ。

「亡くなられたの。心から信頼していた騎士に、クリスという希望を託して。きっと、何よりも、クリス自身の未来を思って。そしてその騎士・・・クリスのもう一人のお父様は、それを守りぬいた。みんな、クリスをとても愛してた・・・自分の命を捧げても惜しくないほどに」

傍らですやすやと眠る赤ん坊を振り返ったリンデの横顔には、底知れない強さを秘めた深い愛情が溢れていた。蜜蝋のほのかな黄色い明かりに照らされたその頬を、一粒の涙が、一瞬輝いて滑り落ちた。

「私もこの子のためなら死んでもいい。この命でこの子が助けられるなら、ためらわずに差し出すよ。何度でも」
「リンデ・・・」

嵐のように様々な思いが渦巻き、クリスは言うべき言葉を見失った。リンデがクリスの手をそっと両手で包み込んだ。

「クリス、お願い、一人で戦おうとしないで。一人で決めてしまわないで」

握られた手が柔らかな胸元に引き寄せられるのを、クリスは抵抗もせずにされるにまかせていた。

「私達、ずっと一緒だって約束したよね?だったら、どんなに困難な時も一緒にいさせて・・・本当の意味で。危険も不安も、私だけ免れようなんて思わないよ。今みたいに、ちゃんと話してくれた方がずっといい。そして一緒に考えよう。だって、私にとっても何よりも大切な宝物だよ?この子も、クリスも・・・」

これまで目にしたこともないほどの力強い意志の輝きを湛えて赤ん坊を見つめるリンデを、クリスは呆然と見ていた。優しく、けれど強く煌く瞳がクリスを捉えた。

「私も守りたい。クリスとこの子の幸せを。そしてみんなで一緒にいられる幸せを・・・だから一緒に戦わせて。二人でなら勇気を持てる。どんな運命にも怖れずに立ち向かえるから」
 
 
 

クリスの様子からは、彼がリンデの言葉をどう考えているのかは全く推し量れなかった。彼はただ、信じられないものを見つけたというように目を見開き、微動だにせず彼女を凝視していた。静かな闇色の瞳の底深く、ひっそりと沈められた感情が揺らめくのが透かし見える。リンデはその深淵を真っ直ぐに覗き込み、力強い大きな手を自分の胸元で握り締めて、どうかクリスが受け入れてくれるようにと心から祈った。

「もちろん私には何の力も無いし、戦うって言ってもそんなに簡単じゃないのは分かってる。でもクリスは言ったよね?『希望を失わなければ必ず道は開ける』って。私はそれを信じるよ。どんなに難しくても、あきらめたりしない。この子にもそれを教えてやりたい。そして、この子にもそうあってほしい。だからこの子の名前はふぁきあ。希望の灯を、守り通した人の名だよ」
 
 
 

「リンデ・・・僕は・・・」

クリスは言葉に詰まり、じっと彼女を見つめ返した。彼女が自分にとってどれほど大事な存在かは知っていた―知っていると思っていた。これまでの平坦とは言い難い人生で、いかに彼女に救われ、力づけられてきたことか。けれど、それでもずっと自分は恐れていたのだということにクリスは気づいた。・・・失うことを。再び愛する全てのものから切り離され、あても無く彷徨うことを・・・だがそうではないのだと彼は知った。自分に与えられた愛は―気づかぬ間にもずっと彼を包んでくれていた愛は、いつも彼と共にあり、この先何があっても変わることはない。彼女は、あらゆる意味で、失われた家族とその温もりを彼に取り戻してくれたのだ。

冷んやりとした薄闇の中、彼女は目もくらむほどのまばゆい光を発しているように感じる。彼女の小さな体の中に無限の泉が存在するように、いつも尽きることなく溢れ、彼を照らしてくれたその光・・・そして彼自身と彼の子供の中にも確かに感じる、その光・・・クリスは彼らの生み出した小さな命に目を遣り、自分達はこの子の「両親」なのだという思いで胸がいっぱいになった。体が震え、思わず涙がこぼれそうになるのを、ぐっと奥歯を噛んでなんとか堪えた。その途端、ふいに稲妻のように一つの言葉が脳裏に甦った。

「'...È la mia luce della speranza ...!'」

母が別れ際に言った最後の言葉だった。
 
 
 

クリスの唇から洩れた、息の音のようなかすかな囁きをリンデは耳にした。しかし何と言ったのかと尋ねる前に、クリスが顔を上げて強い眼差しでリンデを捉え、掠れた声で告げた。

「分かった。そうしよう」

なんとかそれだけ言って、クリスがぎこちなく微笑む。顔を歪めて、まるで泣き出しそうなクリスの笑顔を、リンデは輝きに満ちた笑顔で包み込んだ。クリスの逞しい体が吸い寄せられるようにリンデに近づいてきた。胸元に押し付けていた彼の手が静かに抜かれて、ゆっくりと彼女の背中に廻る。そっと抱き寄せられ、唇が重なった。傷ついた唇を痛ませまいという気遣いもあったのかもしれないが、それはいつもの迸る想いをぶつけるような―あるいは全てを奪い尽くし、占有しようとするような激しいキスではなく、感謝と信頼と敬意に満ちた、優しく温かなキスだった。

「僕達は力を合わせて生きていこう。これからもずっと一緒に」

低く、しかしはっきりと唇に囁かれた言葉に、リンデの胸が切ない幸福感でいっぱいになった。やっと届いた―ずっと伝えたいと願っていた想いが。リンデは熱く潤んだ瞳で声もなくクリスを見つめた。

「愛しているよ、リンデ・・・僕の大切な、素晴らしい妻・・・」

クリスは穏やかな笑みを湛えたまま、眠る赤ん坊に視線を落とし、手を伸ばして指先で、その、まだ頼りない柔らかな頬にわずかに触れた。

「・・・そして、僕のかけがえのない息子・・・ふぁきあ」

幸福そうに赤子に見入っているクリスを見つめ、リンデは、心の底から湧き上がってくる、言葉にしがたい喜びを噛み締めていた。三人を取り巻いているのは、凍みとおるような冬の夜の冷気と、今にも消えそうな儚い蝋燭の明かり、そして不安を含んだ未来。それでもリンデは、それまでの人生で一番幸せだった。体中が希望に満たされ、明るく、温かく輝いている気がした。ふいにクリスが振り返り、気遣う口調で言った。

「ふぁきあが次に起きるまで、まだちょっと時間があるだろう。君は少し眠るといい」
「クリスは?」

クリスはかすかに頭を振った。

「僕は起きている。また次の準備もしなきゃいけないからな」
「でも・・・」

本当は体の芯まで疲れていて、ほんのちょっとでいいから横になりたかったが、ついさっき自分も一緒にと言ったばかりでまたすぐクリスに頼るのは気がひけた。しかしクリスは肩掛けに包まれたままのリンデの肩を押さえて強引にベッドに横たえ、隅に寄せられていた毛皮の上掛けをリンデの胸元まで引き上げて言った。

「君は重労働をしたんだから、少しでも休まないとダメだ。それに僕は、今夜は気が昂ぶってて到底眠れそうにない。ここで君達を見ているよ」

しかしそこでクリスはふと手を止めた。

「そうだ、一つだけ頼みたいことが・・・」
「なに?」

クリスは少し気恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。

「僕の名前を呼んでくれないか?」

リンデは不思議そうに小首を傾げ、夫の真剣な眼差しを見つめ返した。

「クリス?」

すると彼は驚くほど満足気ににっこりと微笑み、彼女の額にそっと口づけた。

「おやすみ・・・リンデ」

心地良い低い声の響きが体に沁み渡り、安心感に包まれる。まぶたに手を載せられると、リンデはそのまま眠りに落ちていった。


 

 続き Fortsetzung

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