忍び寄る闇 〜The Planets : Uranus〜
 
るうはあひるが行ってしまうことをとても悲しみました。あひるはるうにとって従姉妹というよりも一緒に育った妹のようなもので、たった一人の親友でもあり、守るべき大切な存在でした。

(あひるは自分が危ないってことが分かってない。私が守ってあげなくちゃ。どうすればいいのかしら?)

その時、遠くでカラスの啼き声が響き、るうはふと数年前の出来事を思い出しました。それはるうが、母の形見の手鏡をあひるに見せていた時の事でした。何かの都合で鏡を窓際に置いた一瞬の隙に、突然飛んで来たカラスがそれを咥えて飛び去ってしまいました。二人はカラスを追って森に迷い込み、帰れなくなってしまったのでした。疲れ果てた二人の前に、一人の老人が何の気配もなくふいに姿を現しました。

「これはプリンセス・クレールにプリンセス・チュチュ。お困りのようだね。」

老人は怪しく笑いました。

(会った事もないのにどうして私達を知っているの?)

るうは気味悪さで震えました。あひるはどうしていいか分からず、ただうろたえていました。るうはあひるを抱きしめ、何とか声を絞り出しました。

「あの、私達・・・」

しかし込み上げる恐怖感で喉が詰まり、言葉が途切れました。そんな二人の怯えを見透かしたように、老人は親切気な笑みを浮かべて言葉を続けました。

「道に迷ったのだろう?このネズミについて行くがいい」

老人の足元からまるで機械仕掛けの玩具のようにネズミが走り出し、二人の足元を掠めたので、二人は悲鳴を上げました。

「何か困ったことがあったらまた訪ねておいで。遠慮はいらない。」

老人はそう付け足すといかにも楽しげな笑い声を上げて、また突然姿を消してしまったのでした。ちょろちょろと走っては止まるネズミの後を追い、二人は無事に城に戻ることができました。

(そうだわ、あのからす森の老人に頼んでみよう)
 
 
 

あひるの出発が翌日に迫った、月の無い真っ暗な夜、るうは黒いマントを被り、手には蝋燭を灯したランプを一つだけ持って、一人で城を抜け出しました。夜には一段と不気味な森に入っていくと、闇夜だというのにいたるところからカラスの啼き声が響き、木々のざわめきがまるで泣き声のように降り注いできて、思わずるうは頭を抱えてしゃがみこみました。その時、どこからともなくあの老人の声がしました。

「ようこそ物語の闇へ、プリンセス・クレール」
「あ・・・あの・・・」

るうは一瞬躊躇しましたが、心を決めて話し始めました。

「戦争を止める人質として、あひる・・・チュチュがノルドに行く事になったんです。・・・でも、いつまた戦争が始まってしまうか・・・そうなったらあの子は殺されてしまうかも・・・!お願い、あひるを守ってやりたいんです、何か良い方法を授けて!!」
「フフフ・・・いいともさ。お前に覚悟があるならね」

老人は手袋をはめた右手をるうの前に突き出し、手を開いて、透き通った卵形の石のついたペンダントを見せました。

「これを使えば願いを叶えられる。この石はあの子に、殺すのが惜しい程の美貌と、難局を切り抜けるだけの賢さと強さを与えるだろう。そしてあの子が本当に助けを必要とする時、あの子を救うよ」

ニヤリと老人は笑いました。

「お前の心、あひるを助けようとする意志をこの石に封じればね。その代わりお前は自分ではあの子を助けることはできなくなる。それでもいいかね?」
「それであひるを守れるのなら・・・」

老人は満足気に頷いた後、少し考えました。

「だけど物語らしくするには何か代償が無くてはね・・・そうだ、約束の印にお前のその美しい髪を貰おうか」
「いいわ」

るうは迷うことなくきっぱりと答えました。

「覚えておくことだ。お前は決して運命から逃れられない。ハハハ・・・」

るうの手のひらに、しゃらっという鎖の音と共にペンダントが載せられた途端、るうは赤い光に包まれました。そしてその光が石に吸い込まれるように消えた時、腰を覆うほどあったるうの美しい豊かな髪は、肩の下の長さで切り取られていました。赤く輝き始めたペンダントを握り締めたるうがカラスに導かれて消えた後、老人は一人ほくそえみました。

「仕掛けの鍵は投げ込まれた。さて、どうなるかな?ハッハッハ・・・」


 
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