消せない想い 〜Verklärte Nacht〜
(die U15 Auflage)
 
領地に戻ってふぁきあは忙しく働いていました。広い領内をあちこち廻り、変わりが無いかを確かめたり、人々の話を聞いたり、こまごまとした問題事に対処したり、空いた時間には剣の練習に打ち込んだりしていました。実のところ、いつも義父に連れられて都で暮らしていたので、ここで過ごした時間はそれ程長くはなかったのですが、それでもここはふぁきあにとって、穏やかで愛情に満ちた時間を過ごし、時には王子が来て一緒に遊んだりした、懐かしい、心安らげる場所でした。

この場所で雑事に紛れていれば、胸を焼く想いもじきに忘れられると、ふぁきあはそう思っていました。これまで我儘だと思われることを望んだ時にそうしてきたように、何かを求めて叫び続ける心の声に耳を塞ぎ、やがて消えゆくのを待ちました。しかし今度ばかりは、胸の中の火はいつまでも燻り続け、一向に鎮まる気配を見せませんでした。少し治まってきたかと思っていても、例えば祭りの音楽が聞こえてきただけで、炎はあっという間に燃え上がって心を焦がしました。

幸せそうな恋人同士を見かけると胸の奥が疼き、目を逸らさずにはいられませんでした。晴れ渡った空があひるの瞳と同じ色だと気づいてからは、空を仰ぐことさえできなくなりました。そして夜になると、振り払っても振り払っても心から離れない面影がふぁきあを苛み、眠りにつくのを妨げるのでした。一週間近くもそうやって過ごし、ふぁきあは身も心もぼろぼろに疲れ切っていました。
 
 
 

ついにあひるの幻を見るに至って、ふぁきあは認めざるを得ませんでした。自分が、気が狂いそうなほどあひるに恋い焦がれているということを。


 
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